一般道で時速194キロで爆走し事故を起こした元少年が乗っていたBMW(遺族提供)

2021年2月、大分市で時速194kmで車を運転し死亡事故を起こしたとして、男(当時19歳)が危険運転致死罪に問われた裁判で、大分地方裁判所は28日、懲役8年(求刑は懲役12年)の判決を言い渡しました。本件は、大分県警が危険運転致死容疑で書類送検しましたが、大分地検は過失運転致死で在宅起訴。それに対し遺族らはより法定刑の重い危険運転致死への訴因変更を求めて2万8000筆の署名を地検に提出し、危険運転致死容疑に切り替わるという異例の展開をたどりました。ノンフィクション作家の柳原三佳氏が、被害者の遺族の訴えや事故の内容を詳しくレポートした2022年9月の記事をもう一度お届けします(初出:2022年9月11日)※内容は掲載当時のものです。

(柳原 三佳・ノンフィクション作家)

 法定速度が時速60キロの一般道で、時速194キロというスピードを出し、死亡事故を起こした運転手の行為は「過失」なのか? それとも「危険運転(=故意)」として裁かれるべきなのか……。

 昨年、大分市内で起こった事故をきっかけに、今、「危険運転致死傷罪」の構成要件と検察の判断の是非について、大きな議論が湧き上がっています。

県警は「危険運転致死罪」の疑いで送検したが

 交差点を直進中だったA(当時19歳)の車と、対向車線から右折しようとした小柳憲さん(当時50)の車が衝突し、両車は大破。約90メートル飛ばされた小柳さんの車は、その衝撃でシートベルトが切断され、車外へ放出された小柳さんは約2時間半後、出血性ショックで死亡しました。

 Aも重傷を負いましたが、命に別状はありませんでした。

元少年・Aが運転していた車(BMW 2シリーズクーペ)はフロント周りが大きく破損(遺族提供)
死亡した小柳憲さんが乗っていた車(トヨタ・ラッシュ)は、車体の左側が大きく凹損、ルーフはめくれ上がり、フロントのエンジン周りも激しく損傷している(遺族提供) 

 この事故は2021年2月9日、午後11時頃、通称「40メートル道路」と呼ばれている片側3車線の直線道路で発生しました。

写真/事故現場俯瞰(井上郁美氏作成)

 

 交差点での右直事故の場合、一般的には右折車の側に重過失が問われます。しかし、本件の捜査に当たった大分県警は、直進車のAが制御困難な高速度で右折車に衝突したと判断し、2021年5月7日、「自動車運転処罰法違反(危険運転致死)」の疑いで、大分家庭裁判所に送致。同家裁は、大分地検への送致(逆送)を決定しました。

 その後、BMW社による調査でも、A車は事故時に時速194キロのスピードを出していたことが明らかになっています。

 ところが、事故から約1年半後の2022年7月22日、大分地検はAをより罪の軽い『過失運転致死罪』で起訴したのです。