(長谷川 学:ジャーナリスト)
生活に役立つ身近な仕組みなのに、ほとんどの国民がその存在すら知らない制度がある。今年4月1日に始まった「リフィル処方」のことだ。
リフィル処方は、高血圧症など、症状が安定して長期間同じ薬を服用している慢性病患者を対象に、医師の判断で、一度の通院で最大3カ月分の薬を処方できる仕組み。患者にとっては、通院の手間を省ける上に2カ月分の再診料と処方箋料負担を減らせるという大きなメリットがある。
ところがこんな便利な制度なのに、始まって1カ月が過ぎても、いまだに制度の存在自体が国民にほとんど知られていないのが実情だ。
乗り気でない医師団体
最大の原因は、診療所などの医療機関がリフィル処方の活用に後ろ向きで、患者にリフィル処方の存在やメリットを教えていないためとみられる。
厚生労働省は4月1日にリフィル処方をスタートさせたものの、その目的は「再診の効率化につなげ、その効果について検証を行う」こととしており、いまは実験段階というところ。リフィル処方を採用するかどうかは各医療機関と医師任せで強制力はない。
医師と医療機関がリフィル処方に後ろ向きなのは減収になるからだ。リフィル処方で医療機関が得られるのは一回分の再診料と処方箋料。患者は一度通院した後、2カ月間受診しないので、医療機関側は2カ月分の再診料と処方箋料が減収になるのだ。
このため日本医師会の中川俊男会長は今年2月の会見で、医師会員や全国の医療機関に対し「慎重の上にも慎重を重ねて」対応するよう求めており、日本共産党系とされる大阪府保険医協会は制度そのものに反対している。
大阪府保険医協会は、「当院では、リフィル処方(処方箋の使いまわし)は患者さんの健康確保上の観点から原則行っておりません」という院内掲示用ポスターのサンプルをホームページに掲載。会員がダウンロードして使えるようにしている。