また横浜支店の頃にいた独身寮には、「大卒何するものぞ」の気概で頑張っていた高卒の外回りの人がいた。年齢は筆者より2~3歳上で、人事部の部長代理である寮長にも「寮長それはおかしいです」と堂々と意見を言ったりしていた。多少癖はあったが、リーダーシップもあり、将来、きっと支店長ぐらいにはなるだろうなあと感心して見ていた。
ところが彼もある日突然いなくなった。訊いてみると、よく後輩たちを引き連れて飲食に行き、いつもおごっていたので金に困り、顧客から預かった金に手を付け、懲戒免職になったという。「きっといい格好したかったんだろうなあ」と教えてくれた人が言っていた。
犯罪に手を染めそうになった瀬戸際
かく言う筆者も、銀行の金に手を付けそうになったことがある。入行1年目に津田沼支店で元方(もとかた)という、支店の金(当時1~2億円)を一手に管理する仕事をしていたときだ。
当時の都銀は、新入行員の給与を異様に低く抑えていて、大卒の初任給は総額で11万円強、独身寮費、社会保険料、社内の積立金などを差し引くと、手取りは6万円くらいしかなかった。そこから日本育英会の奨学金の返済、書籍や身の回り品の購入、付き合いの会食費などを差し引くと、ほとんど残らなかった。
すぐにクレジットカードに頼るようになり、支店の同期の女の子からは「えーっ、クレジットカード使わないと風邪薬も買えないのぉ?」と笑われ、毎月のカード決済日には血眼になって金をかき集めていた。
そんなある日、午前中の勘定を締めると2500円あまった(元方は昼と営業終了後の一日2回勘定を締め、現金と合致していることを確認していた)。おそらく50円硬貨の50個の包み1本をどこかで数え間違ったのだと思われる。金に窮していた筆者は、それをこっそり持ち帰ろうかと一瞬考えた。ただしバレれば、即懲戒免職である(銀行は1円でも着服すれば、有無を言わさず懲戒免職になる)。
落ち着かない気分で一日の業務を終え、最終的に勘定を締めると、勘定と現金がぴったり合った。結局、2500円あまったのは、昼に締めたとき現金の数え違いをしていたためで、筆者は罪を犯さずに終わった。