学生側の動きが鈍かった「女性排除サークル問題」
矢口:それも間違いではありません。一方で、学生自身が考えた結果が一部の人間を差別し、排除するものであった場合、それを放置することも到底正しいとは思えません。
最初に「女性排除サークル問題」について「自主的・自律的」な解決を望む声明が、東大の執行部理事から出されたのは2015年のことでした。これに対する学生の動きは非常に鈍いものでした。同年4月のサークル勧誘でも、堂々と「女性東大生お断り」を掲げるサークルが多数見受けられました。
しかし、やがて学生自身もサークルで女性東大生を排除することはおかしいということを意識するようになります。社会的な風潮も後押ししたのでしょう。2020年にようやく、学生自治会が「(女性を排除するような)差別行為を認めないこととしました」という宣言を発表しました。
今では、表立って女性を排除するようなサークルはほとんどなくなった、と聞いています。
ただ、東大の学生の8割が男性という点は、この20年間ほとんど変わっていません。表立って「女性東大生はお断り」と謳っていなくても、女性東大生が入りにくい雰囲気のサークルはあると思います。
それが問題であるということを、サークルメンバーも含め、学生全体に気付いてもらえるよう、我々教員は努力していく必要があると感じています。
──具体的に、どのような「努力」が教員側に求められますか。
矢口:教育の中で学生に気付いてもらえるようにすべきだと思っています。
教室の中で知識を得ることだけが大学教育の目的ではありません。教室の外で、自ら考える、問いを立てる、当たり前だと思っていることを考え直す。こういった機会を与えることも、大学教育の目指すべきところです。
良く言われている陳腐なことではありますが「常識を疑う」ということが大学生の第一歩です。そういう気付きをしてもらえるような教育を、我々教員はしていかなければなりません。
また、インクルーシブで平等なキャンパスを作っていく過程で、サークルだけではなく誰かが差別を受けることがないような配慮を、大学の制度として整備していかなければなりません。
──書籍冒頭で、日本の高等教育機関、特に東大をはじめとするトップ大学ではジェンダー問題に関する構造改革が、他国と比較して遅れている点に言及していました。なぜ、日本では、大学の男女比率の偏りが、これまで問題視されてこなかったのでしょうか。