「逆差別」で見落とされている論点

矢口:社会全体の問題意識が不足しているためだと思います。

 例えば、女性のための政策を作るのは、女性だけの仕事ではありません。ダイバーシティや女性活躍といった政策を作るためのリーダーを設置すると、その役割を担うのは女性であることが多々あります。

 男性も含め、社会全体で行わなければならないという意識が、まだ日本には不足していると感じています。

 大学については、キャンパスに女性が増える、女性だけではなくさまざまな属性の人たちが増えていくことは、女性自身だけにとっていいことではなく、大学全体にメリットがあるという認識が不足しているのだと思います。

 多様な意見が交差する中、新しい価値観や新しい発想が生まれてくるということは、男性だろうが女性だろうが、出身地がどこであろうが、その社会に所属するすべての人にとってメリットがあります。大学が優れたものになっていけば、大学が所属している社会そのものも優れたものになっていくでしょう。

 社会をより良くしていくために、大学を良くする。そのためには、キャンパスでのダイバーシティの尊重は必要不可欠なのです。

「多様性はすべての人たちにとって良いものだ」という意識が、日本ではまだ十分浸透していないと感じています。「女性のために」「外国人のために」「LGBTQのために」となったときに、結局、日本では当事者の問題として片付けてしまいがちです。

 今、大学では女性枠を設ける理工系の学部も増えてきています。それはあたかも「女性のためのもの」というように聞こえてしまいがちです。

 しかし、女性枠は、女性のためだけに枠を設けているわけではありません。組織がより多様になり、良いものとなるために設けているものです。そういった理解をしている日本人は、まだ少数派だと思います。

──女性枠に関しては「男性に不利に働く」という意見も耳にします。

矢口:「逆差別」と反論されるものですね。

 本来は自分が入れるはずだったのに、女性枠が設けられた結果自分が入ることができなかった。これはおかしい、逆差別だ。

 私は、この当事者の声は、とても大切だと思います。

 ただ、「逆差別」の話となると、個人レベルと制度レベルの話が混同されてしまいがちです。差別を是正しよう、ということは制度を見直すことです。今まで圧倒的に男性優位だった制度構造を是正するというのは、制度の話です。

 その過程で、ある特定の人たちが苦い体験をしてしまう。これを「やむを得ない」で片付けることはできません。その人たちの気持ちは、とても大切ですし、貴重な意見だと思います。

 しかし、男性優位の構造の中で涙をのんできたたくさんの女性たちがいた、ないしはいまだにいるということは事実です。逆差別の話になると、その女性たちのことは、すっかり忘れ去られてしまいます。

 彼女たちの存在、彼女たちの体験や声を忘れて、「今」涙をのんでいる人たちにメディアがフォーカスしてしまうことに、私は疑問を感じています。(後編に続く)

関 瑶子(せき・ようこ)
早稲田大学大学院創造理工学研究科修士課程修了。素材メーカーの研究開発部門・営業企画部門、市場調査会社、外資系コンサルティング会社を経て独立。YouTubeチャンネル「著者が語る」の運営に参画中。