エピローグ/露プーチン王朝の近未来は?

 露V.プーチン大統領は今年9月12日、サンクトペテルブルクで開催された文化フォーラムの席上、露マスコミ向け記者会見に出席。

 記者からの質問に答える形で、ウクライナ戦争におけるロシア側のレッドラインを明示。露大統領府サイトには、レッドラインに関する質疑応答全文が記載されています。

 露大統領府プレス・リリースにはこのレッドライン部分のみ全文掲載されているので、この質問自体ヤラセで、欧米に警鐘を鳴らす意味での質疑応答・レッドライン掲載と筆者は理解しました。

 関連部分を一部訳出します。

欧米がウクライナに対し長距離ミサイル使用を許可する場合、それは取りも直さず、ウクライナ戦争においてNATO・米国・欧州諸国が直接戦争に参入することを意味するので、これは紛争の本質を変えることになる

(ロシア語原文)Если это решение будет принято, это будет означать не что иное, как прямое участие стран НАТО, Соединённых Штатов, европейских стран в войне на Украине. Это их прямое участие, и это уже, конечно, существенным образом меняет саму суть, саму природу конфликта.

 上手の手から思わず水が漏れました。

 今までクレムリンは一度も「戦争」という言葉を使ったことがありません。クレムリンにとりウクライナ戦争はあくまで「特別軍事作戦」であり、「対テロ作戦です。

 ところが、プーチン大統領自ら「ウクライナ戦争」という言葉を使ったのです。

 プーチン発言の中に、もう一つ注目すべき一句があります。彼は続けて次のように述べています。

「すなわち、これはNATOや米国、欧州諸国がロシアと戦うことを意味する。もしそうなれば、この紛争の本質が変化し、我々はそれ相応の対応を迫られることになる」

「それ相応の対応」が何を意味するのか不明ですが、従来の文脈から考えれば核使用となり、「ウクライナに対する長距離精密ミサイル使用容認」がレッドラインであることが透けて見えてきます。

 換言すれば、プーチン大統領はそれほど欧米による長距離精密ミサイルの対ウクライナ供与・使用容認を恐れていることになります。

 露国家予算案の戦費不足が表面化してきました。

 今年5月に誕生した新内閣は戦時内閣です。プーチン大統領が経済専門家を国防相の重職に任命したことは、ウクライナ戦費捻出の必要性を物語っています。

 依然として戦争終結の姿は見えず、中国は漁夫の利を得ています。

 習近平国家主席にとっては内心笑いが止まらないことでしょう。口先介入だけで、熟柿が落ちてくるのを待っていればよいのですから。 

 中国の利益=ロシアの損失であり、これは莫大な国富がロシアから中国に移転している構図です。

 換言すれば、「ロシアの国益」を標榜するプーチン大統領は実態としてロシアの国益を「毀損」している構図にて、ロシアの対中資源属国化は今後ますます深化していくことになるでしょう。

 プーチン大統領は2024年2月29日に2023年度の大統領年次教書を発表。ウクライナ戦争勝利に自信を示し、成果を誇示。

「ロシア経済は順調に発展している」と語りましたが、実態やいかに? 

 露財務省発表では、2023年1~11月の「国家購買」は5.55兆ルーブルでした(以後、発表停止)。

 一方、露連邦統計庁発表によれば、2023年の露GDPは172兆ルーブルです。仮に2023年通期の国家購買を6兆ルーブルと仮定すれば、この国家支出はGDPを3.6%押し上げる主因となります。

「戦争経済」は縮小再生産にて、国家が戦争経済により持続的発展・繁栄を享受することは不可能です。

 ロシア経済は今、偉大なる「ポチョムキン村」(見せかけの繁栄)への道を歩んでいると筆者は考えます。

 プーチン大統領はついに、自分の周辺を身内で固める独裁体制構築に着手しました。

 人治国家プーチン王朝の近未来は、実は我々が想像している以上に脆弱なのかもしれません。