仕事の未来はどうなる?

 例えば、ある職種の従事者が10年で20%減ることを考えてみよう。労働市場では話が大きくなるため、ここでは現在10人の部署が10年後に8人になると考えると、イメージしやすいだろう。

 この時、「2人も削減されるのか」や「私が削減対象だったらどうしよう」といった懸念が頭をよぎるかもしれない。ただし、多くの部署では10年間で2人程度の人員削減であれば、定年退職などで欠員が発生した際に補充しない程度で対応可能なケースが多いのではないだろうか。

 また、振り返ってみると、事務など特定の職業がテクノロジーによる効率化によって大きく減少するのではないかという懸念は、表計算などのソフトウェアが世の中に広がった際にも生じていた。しかし、現在も多くの人々が事務職として働き、労働市場において大きなシェアを占めている。

 その一因として、タスク毎に効率化は進んでいるが、特定の職業に紐づいたタスクが多様になり、増加していることが考えられる。つまり、事務職をはじめとするホワイトカラーとして働く多くの人は、過去と比べると、多種多様で多数のタスクを抱えるようになっているのではないだろうか。

 そのようなことが今後も見られる場合、つまりホワイトカラーの担当するタスクが増え続ける場合には、生成AIの影響によってホワイトカラーの数が大きく減ることはなく、これからも相当程度のシェアを占めるといったことがありえるだろう。こうした世界では、生成AIによって代替されることを恐れるよりも、増殖するタスクに対応するためにも、いかにして共生していくかという姿勢が重要になってくる。

 このように現時点では、「生成AIによって仕事がなくなる」という言説を過度に恐れる必要はないように思われる。もちろん、予想をはるかに上回るような生成AIの技術的進化や、現在誰も予期していない新たなテクノロジーの登場もあり得るため、それが仕事の未来にどの程度インパクトを与えるかについて予測することは困難だ。

 だからこそ、自身の仕事に対する影響はその都度見直す必要があり、新たなテクノロジーとの共生に前向きな姿勢が求められる。また、労働市場の見通しや認識は随時更新されなければならず、それに応じて、企業もまた自社と外部環境の関係を見直し続ける必要があるのではないだろうか。

*1生成AIがもたらす 潜在的な経済効果
*2Generative AI and jobs: a global analysis of potential effects on job quantity and quality
*3Gen-AI: Artificial Intelligence and the Future of Work

今井 昭仁(いまい・あきひと) パーソル総合研究所 研究員
London School of Economics and Political Science 修了後、日本学術振興会特別研究員、青山学院大学大学院国際マネジメント研究科助手を経て、2022年入社。これまでに会社の目的や経営者の報酬など、コーポレートガバナンスに関する論文を多数執筆。