顧客の不満を直に受けるコールセンターのオペレーターをはじめ、精神的に負担のかかる仕事は少なくない。そうした仕事に就く人をサポートするため、生成AIを活用するケースが増えている。導入が進む「感情AI」とは、どういうものなのだろうか。(小林 啓倫:経営コンサルタント)
感情労働のリスク
「感情労働」という言葉がある。時おり話題になるのでご存知の方も多いと思うが、仕事をする際に、自分の感情を制御する必要があるような労働を指す。
東京成徳大学の関谷大輝教授は、この感情労働について、「感情労働のイメージは、肉体労働や頭脳労働と対比して捉えると理解しやすい」と表現している。肉体労働では肉体を使い、頭脳労働では頭脳を使って仕事をする。それと同じように、感情労働では感情を使って仕事するというわけだ。
具体的には、さまざまな接客業がこれに該当すると言われている。特にコールセンターのオペレーターはその典型で、彼らは顧客からかかってくる電話に、「感情を使って」対応しなければならない。
そもそもコールセンターに電話してくる顧客は、何らかの問題を抱え、不安や怒り、悲しみといった感情を抱いているのがほとんどだ。そんな彼らに接する際、オペレーターは彼らの感情を受け止め、一方で自らの感情は抑え込んで、穏やかに対応することが求められるというわけである。
そう説明されただけでも、感情労働がいかに重労働かイメージできるだろう。
先ほど、この話題が時おり注目されると述べたが、その際は感情労働の害がクローズアップされている場合が多い。コールセンターのオペレーターが一日中、感情が高ぶった顧客に接し、時には理不尽な言葉を浴びせられながら仕事しなければならないとすれば、彼らの離職率が高いと指摘されるのも当然だ。
それが単なるイメージではなく実態であることは、さまざまな研究によって明らかにされている。
台湾の研究者らが医療専門職に従事する人々120人を対象に行った質問調査によると、医療専門職にも明確な感情労働の側面が見られるという。たとえば、偽りの笑顔で本音を隠したり、患者に共感を示そうとしたりといった行動が確認されたそうだ。
そして、こうした感情労働が多くなればなるほど、感情枯渇(仕事によって感情的・身体的なエネルギーが枯渇した状態)も大きくなり、それによってうつや不安、いらだち、家族との関係悪化といった悪影響が引き起こされていた。
これらの悪影響は単に気分の問題ではなく(気分の問題というだけでも十分に憂慮すべきものだが)、業務上のパフォーマンスの低下や、いわゆる「燃え尽き症候群」の発生など、感情労働者を雇用する企業の側にとっても、無視できない経済的ダメージをもたらす可能性がある。
そこでさまざまな企業が対策に乗り出しているわけだが、いま新たな技術が試されようとしている。それは生成AIによる感情労働者のケアだ。