感情労働者を支えるAI「Pro-Pilot」

 マイクロソフトの研究開発部門であるマイクロソフト・リサーチが、ノースイースタン大学やイリノイ大学などの研究者らと協力し、興味深い論文を発表している。彼らは「Pro-Pilot」と名付けられたアプリケーションを開発し、CSR(カスタマーサービス担当者)の感情労働がもたらす負の影響を軽減することに成功したという。

 発表された論文に基づいて、このPro-Pilotについて整理してみよう。

 これはCSRをサポートするために開発されたAIアシスタントで、LLM(大規模言語モデル、ChatGPTのような生成AIを実現する中核となる技術)を基盤としており、CSRが顧客から無礼な対応や不快な言動を受けた際に、彼らが自身の感情を調整し、冷静に対応するのを支援するよう設計されている。

 Pro-Pilotにはさまざまな機能が搭載されているのだが、中心となるのはEmo-Reframe(感情再構築)と名付けられた機能だ。

 これはCSRが顧客とやり取りする中で、ネガティブな思考や感情に囚われないようにサポートする機能であり、顧客の無礼な態度や否定的なコメントに対し、冷静かつ建設的な視点で再評価できるよう彼らを促す。この機能により、CSRは感情的な負担を軽減し、プロフェッショナルな対応を維持できるようになるという。

 たとえば、空港で手荷物が出てこなかった乗客が、怒って航空会社に電話してきたとしよう。すぐには対応可能な部署につながらず、たらい回しにされたあげく長時間待たされたため、乗客は怒り狂っている。

 ようやく対応したオペレーターに対し、乗客は「いつまで待たせるんだ!」と叫び、「手荷物引換証番号?同じことを何度も言わせんな!」と取りつく島もない。そんな時、Pro-PilotはCSRに対してこんなメッセージを表示する。

 顧客の不満は、彼らの置かれている状況に対するものであり、あなた個人に向けられたものではないことを忘れないで。冷静さを保ち、明確な質問をして必要な情報をすべて収集し、迅速に問題解決にあたることを顧客に保証しましょう。プロ意識と共感を忘れずに対応することで、状況を効果的に管理し、最善のサポートを提供することができます。

 こうしてCSRは、顧客の怒りが自分個人に向けられたものではないことを再認識し、感情を「再構築」して冷静に業務を遂行できるようになるというわけだ。もちろん、生成AIの技術が活用されているので、表示されるメッセージは定型文ではなく、実際の顧客とのやり取りに基づいて生成される。

ロストバゲージは確かに腹が立つが、それをオペレーターに当たるのはいかがなものか(写真:AP/アフロ)ロストバゲージは確かに腹が立つが、それをオペレーターに当たるのはいかがなものか(写真:AP/アフロ)