ドイツではショルツ連立政権が崩壊
欧州のその他の国々では、もともと多数の国政政党が一定程度の議席を持ち、連立政権を運営することが珍しくありません。
代表的なのはドイツです。現在のショルツ内閣は中道左派の立場をとり、社会民主党と緑の党、そして自由民主党の3党連立で運営されていました。定数733のドイツ連邦議会(下院)では、直近の2021年総選挙で社会民主党が第1党となりましたが、その議席は全体の3分の1に満たない206議席しかありません。第2党は野党のキリスト教民主・社会同盟で197議席。そして緑の党の118議席、自由民主党の92議席などとなりました。
2021年だけでなく、ドイツ連邦議会では6〜7つの有力政党が一定の勢力を常に持っており、1990年代以降、単独過半数を得た政党がないのです。
現在の首相、ショルツ氏は社会民主党のリーダーですが、単独では政権を運営できないため、緑の党、自由民主党との連立を組んでいました。ところが、与党内で政策の相違が目立つようになり、政権運営は厳しさを増すばかり。とうとう、この11月6日には自由民主党の党首を務めるリントナー財務大臣が解任されて連立政権が崩壊し、来年3月末までに総選挙が行われることになったのです。
ハング・パーラメント下での連立政権のもろさを世界に見せつけた格好になりました。
一方、大統領制をとる国では、大統領の与党が議会で少数派になっても、大統領の立場に議院内閣制ほどの影響は生じません。欧州では、フランスがそれに該当するでしょう。
ことし7月に行われたフランス下院(定数577)の選挙では、第1党の左派連合の「新人民戦線(NFP)」が182議席、マクロン大統領が率いる中道の「与党連合」が165議席、極右の「国民戦線(RN)」が143議席などとなり、どの政党も過半数を制することができませんでした。
この選挙は、欧州議会選挙で極右勢力が躍進した結果を受けてマクロン大統領が急きょ議会を解散し、実施されたものです。「極右を退ける」というマクロン氏の狙いは成功しましたが、マクロン氏を支える与党連合は改選前から85議席も減らして第1党から滑り落ちました。単独で政権を担える政党がなくなり、フランス政治は混迷を深めるようになったものの、今のハング・パーラメント下でもマクロン政権が崩壊に導かれることはないのです。そこが議院内閣制と大統領制の違いです。
このほか、スウェーデンやマレーシア、オーストラリアなど多くの国で近年、ハング・パーラメントが出現しています。