関東大震災の朝鮮人虐殺事件に関する写真展を主催した、韓国最大野党・共に民主党の李在明代表(写真:AP/アフロ)

韓国で、関東大震災の際に起きた朝鮮人虐殺事件に関する写真展が開催された。主催したのは、最大野党・共に民主党の李在明(イ・ジェミョン)代表ら。8月に公開されたドキュメンタリー映画の紹介という格好だが、そこには2026年に見込まれる大統領選に向けた政治的思惑が透ける。

(平井 敏晴:韓国・漢陽女子大学助教授)

「関東大虐殺特別法を迅速に国会で通過させます」

 韓国の最大野党、共に民主党の李在明(イ・ジェミョン)代表は10月23日、こう宣言した。李代表らが主催した写真展「101年間否定された真実、1923 関東大虐殺映画ルポカット」のオープニングレセプションでのことだ。関東大虐殺特別法がどのようなものなのかは定かではないが、真相究明と被害者の名誉回復を求めるものとの報道もある。

 李代表はさらに、朝鮮人の悲しい歴史に関心を持とうと呼びかけ、慎重な面持ちで「101年が過ぎても、関東大虐殺はいまも私たちの日常の暮らしの一部でもあるような気がする」と思いを吐露した。

「関東大虐殺」とは、日本では関東大震災朝鮮人虐殺事件などと呼ばれている。1923年の関東大震災で、混乱のなか「朝鮮人が井戸に毒を入れた」「朝鮮人が放火した」といった噂が流れ、多くの朝鮮人が殺害された。犠牲者の数は日本の司法省(現法務省)の記録では約230人とされている一方で、日韓併合後に上海の大韓民国臨時政府が発行した機関紙『独立新聞』(1923年12月5日付)では6661人とされており、大きな隔たりがある。

 この事件を調査してきた立教大学の山田昭次名誉教授は、司法省の記録は朝鮮人虐殺の実態を隠そうとしているうえに、軍隊と警察による虐殺を除外していると指摘している。一方で山田名誉教授は、『独立新聞』の統計についても不正確だとしている。

 この朝鮮人虐殺事件について、韓国側はこれまで再三にわたり真相解明の必要性を訴えてきたものの、日本政府側で何らかの動きがあったわけではない。李代表の発言は、この事件をめぐる日本政府の対応不足を念頭に置いている。

 10月23日から25日まで3日間の日程で開催された写真展は、今年の8月15日に韓国で公開されたドキュメンタリー映画『1923 関東大虐殺』*1のカットから構成されている。この映画には多くの証言が集められ、鳩山由紀夫元首相も「流言飛語自体を当時の内務省から発している」と述べている。また、この映画は公開前の今年5月、日本の参議院議員会館で立憲民主党の杉尾秀哉参議院議員の支援を受けて上映会が開催された。来年には日本でも上映が予定されているという。

*1:『1923関東大虐殺』(配給会社:映画特別時SMC)のYouTube予告編

 写真展の会場となったのはソウル汝矣島にある国会議員会館3階のロビーで、大小9つの展示ボードが配置されていた。一番奥のメインのボードには、虐殺者数とその地域別内訳などの詳細を報じる『独立新聞』の1面記事が大きくプリントされていた。ほかのパネルは映画『1923 関東大虐殺』の内容や制作陣の紹介などだ。映画の一部も動画で流されていた。

 展示で強調されていたのは、朝鮮人虐殺がアメリカやドイツの新聞でも報じられていた点や、そうした報道内容を日本政府がどのように否定していたのかという点である。アメリカで最近発見されたという虐殺の新たな証拠とされる写真も紹介されていた。撮影者はジョージ・ロスという人物だという。