「ダイエット内科医」ががん治療を提供する現状

 翻って、がんの自費細胞療法も、民間療法と同じように、選択肢がなくなった患者にとっての「神頼み」のような位置づけだと考えれば、ニーズがあることは理解できる。治療を提供する側が利益を得ている点で、弱者を食い物にしているという批判を受けるのも同じである。

 ただし、民間療法とがんの自費細胞療法には決定的な違いがある。それは、民間療法が法的な制度に従っていない一方で、がんの自費細胞療法は規制対象になっているという点である。

 日本では2014年に「安確法」が施行され、再生医療の提供には「再生医療等提供計画」を作成し、民間の「再生医療等委員会」の審査を受けることで実施可能となった。これは実質的に、国の審査を不要とした点で規制緩和と言える。趣旨は、日本が世界でも実績を上げている再生医療をいち早く実用化しようというものだった。

 再生医療はリスクに応じて第1種から第3種に分類され、自家NK細胞療法は第3種に該当する。この制度により、多くの医療機関で再生医療が提供されるようになった。

厚労省のデータベースで安確法に基づいて再生医療を提供する施設や治療メニューを確認できる(出典:厚生労働省)厚労省のデータベースで安確法に基づいて再生医療を提供する施設や治療メニューを確認できる(出典:厚生労働省)
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 筆者が厚労省のデータベースで確認したところ、安確法に基づく審査により全国で提供されているがんの細胞療法に関連した治療メニューが約1000存在することがわかった。北は北海道、南は沖縄まで、全国で提供されている。東京をはじめ大都市部のクリニックが目立つ。

 提供している医療機関は、がん専門のクリニックばかりではない。内科のクリニックのほか、整形外科、眼科、健康診断、美容医療関連のクリニックなどが名を連ねる。

 今回の厚労省の緊急命令を受けたクリニックの責任者も、がん治療の専門医ではなかった。データベースにある責任者の医師をネット検索すると、「ダイエット内科医」として紹介されていた。

 また、再生医療等提供計画を審査する再生医療等委員会のデータを見ると、特定の委員会が大量のがん治療計画を審査していることもわかる。自分自身のグループとみられるクリニックの審査を行っているような傾向があり、公正性に疑問が生じる。

 幅広い医療機関でがん治療に関わるのは一見よいことのように思えるが、これらのクリニックが果たして適切ながん医療を提供できているのか疑問である。今回の厚労省の緊急命令を機に、改めて体制を見直す必要があるのではないか。