安確法はエクソソームの野放図な利用の背景に

 再生医療は有望な治療法として期待されているが、安全性と有効性の確保が最優先である。今回の感染症発生は、現行の制度に基づく運用において元々指摘されていた欠陥が、現実の事故として表出した恐れがあるのではないか。

「そもそも安確法は、こんな治療を広げたくて作られたのか?」という思いを禁じ得ない。ここでは詳しくは述べないが、がん治療とは別に、安確法をめぐっては、細胞から分泌されるエクソソームなど美容目的の利用でも、野放図な利用が問題視されている。

 こうした問題が存在するのであれば、制度や運用の見直しと強化が急務であるといえる。科学的根拠に基づく厳格な審査、医療機関の専門性の確保、適切な治療計画の設定、衛生管理の徹底などが求められる。

 安確法は定期的な見直しが行われることになっているが、それで間に合うのかも考えてよいかもしれない。社会全体で再生医療のリスクとメリットを正しく理解し、適切な治療選択が行われる環境を整えていく必要がある。

 科学的根拠が不足している治療が行われているのを百歩譲って許容できたとしても、専門性の伴わない医師による、衛生管理が不十分で、審査が杜撰ながん治療は存在価値がないのではないか。国はこうした治療の退場を迫るべきだ。

【参考文献】
◎厚生労働省「再生医療等の安全性の確保等に関する法律に基づく緊急命令について
医療法人輝鳳会
再生医療等安全性確保法第26条第4項の規定により認定された認定再生医療等委員会の一覧
厚労省が緊急命令、再生医療で重大感染症、がんの自家NK細胞療法、美容医療でのリスクを指摘する声も、「医療法人輝鳳会 THE K CLINIC」で2人が入院の事態
再生医療連載Vol.2 再生医療委員会に5つの問題発覚、公正さ欠く実態など明らかに

星 良孝(ほし・よしたか)
ステラ・メディックス代表取締役/編集者 獣医師
 東京大学農学部獣医学課程を卒業後、日本経済新聞社グループの日経BPにおいて「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集者、記者を務めた後、医療ポータルサイト最大手のエムスリーなどを経て、2017年に会社設立。獣医師。
 ステラ・メディックス:専門分野特化型のコンテンツ創出を事業として、医療や健康、食品、美容、アニマルヘルスの領域の執筆・編集・審査監修をサポートしている。また、医療情報に関するエビデンスをまとめたSTELLANEWS.LIFEも運営している。
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