批判の的になったのは300万円近くかかる自費診療

 緊急命令の対象となったのは、東京都中央区に所在する「医療法人輝鳳会 THE K CLINIC」。同クリニックに対して、再生医療の提供および関連施設での細胞製造の一時停止が命じられた。

 厚労省によれば、このクリニックで治療を受けた2人が微生物感染による重篤な症状で入院する事態となったという。

 投与された特定細胞加工物の検査で、感染症の原因と考えられる微生物が検出されたことから、細胞を製造する過程で微生物が混入した可能性が高い。培養環境の衛生管理や検査体制の不備が強く疑われている。

 そもそもNK細胞療法は、「免疫療法」の一種である。免疫療法は、患者自身の免疫細胞を強化してがんを攻撃する治療法で、このカテゴリーにはNK細胞療法のほか、T細胞療法や樹状細胞療法などが含まれる。これらの多くは自費診療で行われてきた。

 自家NK細胞療法では、患者の血液から白血球を取り出し、「ナチュラルキラー細胞(NK細胞)」を培養・増殖して体内に戻す。NK細胞は、病的な細胞を攻撃する性質があり、がん細胞にも効果を発揮すると考えられている。

 しかし、この治療法は1回の注入で約40万円と高額で、数回の注入で総額300万円ほどかかる場合が多い。その安全性や有効性についての科学的根拠が乏しいため、医療関係者からの評価は極めて低く、批判の対象となってきた。

 この10月29日、都内で開かれた講演会で、日本臨床腫瘍学会暫定指導医の資格を持つ名古屋市立大学特任教授の岩田広治氏が、トリプルネガティブ乳がんと呼ばれる難治性がんの解説をしていた。そこで説明されたのは、抗体薬剤複合体と呼ばれる新薬の登場で、これは数百人の臨床試験で延命効果を示すことができたという内容だった。

 筆者はやや場違いとも思いつつも、厚労省の緊急命令が出された直後でもあったため、難治性がんなどでも実施が広がっているNK細胞療法の問題を岩田氏に聞いてみた。

 すると、同氏は「個人的な感想ではあるが、NK細胞療法は科学的根拠、エビデンスがない治療法であると認識している」と明言。やはり専門家の意見を聞くと評価は低いままであることがうかがわれた。

ギリアド・サイエンシズが10月29日に開催したトリプルネガティブ乳がん(TNBC)の啓発講演会。一番右が岩田氏。右から2番目は難治性がん啓発キャンペーン応援アンバサダーとなった藤本美貴さん(写真:星良孝)ギリアド・サイエンシズが10月29日に開催したトリプルネガティブ乳がん(TNBC)の啓発講演会。一番右が岩田氏。右から2番目は難治性がん啓発キャンペーン応援アンバサダーとなった藤本美貴さん(写真:星良孝)

 それにもかかわらず、なぜこのような治療が現在も行われているのか。それは、がんの治療手段が尽きた患者にとって、一般的な医療機関で提供される治療法では限界があるためだろう。