日本のコロナ対策は「うまくいった」

 なお感染症対策ということでいえば、2023年には新型インフルエンザ等対策特別措置法の大規模改正が行われ、従来都道府県知事の役割が大きかったのが特徴のひとつだが、迅速な初動対応等のためにむしろ政府の役割強化が行われた。

 2024年7月には政府行動計画も抜本改正(全面改定)が行われた(今後、都道府県も同様の計画を策定することになる)。

 政府の組織を見ても、内閣感染症危機管理統括庁が設置され、平時〜有事において多くの政府人材を活用できる体制が整えられ、日本版CDCとも言われる国立健康危機管理研究機構が設置された。

 どうだろうか。読者諸兄姉はフォローしていただろうか。いささか心許ないのではないかという気がしている。

 民間での取り組みはどうか。感染症対策は、日本のように良くも悪くも緊急事態法制の権限が弱い国家の場合には、人々の感染症対策の理解と信頼感、それらを背景にした協力が欠かせない。

 そんななか、実は日本経済新聞社が気を吐いている。2014年の「日経アジア感染症会議」から毎年各界の関係者を集めて、ネットワーキングや提言を公表する会議を主催しているのだ。今年が第11回になるのだが、筆者も不見識で恥ずかしながら初めて参加するまで会議の存在を知らなかった。

 今年は2024年10月22日〜23日の2日間にわたって、事前に準備を行った多くのセッションのもとに、WHOや製薬会社、政府、国内外有識者も集めたプログラム構成で開催されたのである。

第11回日経・FT感染症会議

 筆者は牧原出東大教授がモデレーターを務める「議題1 資源の戦略的投入」に参加した。10年の節目を経て、今年からは医学・公衆衛生学系以外の社会科学系研究者らも参加することになったという。事前に政府行動計画を読み込み、参加者は課題の頭出しを行ったのち、議論するという構成だった。

 一応、部外秘とのことなので、以下に、筆者の問題意識のみ記しておくことにする。

 日本の政府行動計画はそもそも新型インフルエンザを踏まえて相当程度練り込まれていたものであった。感染症対策に限定すれば、超過死亡数などの指標を踏まえても世界的には日本のコロナ対策は総じてみれば相当うまくいったと評価されている(前述の内閣官房有識者会議報告書内にも記述あり)。このことは医療・公衆衛生学の標準的な理解でもあると思われる。

 しかし、社会科学の文脈からいえば、政策の実際の効果や定量的に計測される社会の「実態」と人々の認識がずれるということはよくあることである。

 例えば、読者諸兄姉は治安をどう見ているだろうか。「治安が悪化した」という認識を持っている人もいるのではないか。確かにテレビでも連日、匿名・流動型犯罪グループによる強盗事件が報道されていたりして、不安を感じている人がいても決しておかしくない。

 しかしデータを見れば、別の側面も見えてくる。