累計死者数は7.5万人、もっとしっかりした振り返りが必要では?

 メディアにもある時期までは感染者数や実効再生産数といった数字が溢れていたが、いつの間にかすっかり目にしなくなった。23年5月に新型コロナの感染症法上の位置づけが5類に移行したことも大きいだろう。

 治療費が通常の診療と同様に位置づけられるなどして、現在では多くの人はコロナなどまるでなかったかのように暮らしている。

 しかしアフリカではエムポックス感染症が発生し、アメリカでも鳥インフルエンザの感染拡大が生じている。コロナもさることながら、次なる感染症対策が求められている。

新型コロナ感染者数の推移(図表:共同通信社)新型コロナ感染者数(1定点医療機関当たり)の推移(図表:共同通信社)
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 日本政府はコロナ禍とコロナ対策を振り返ったのだろうか。実は形式的には、すでに「振り返り済み」なのである。2022年内閣官房に「新型コロナウイルス感染症対応に関する有識者会議」が設置され、2カ月にわたって5回の会議が開催された。

1.趣旨
新型コロナウイルス感染症への政府の対応に関する以下の点について意見を求めるため、「新型コロナウイルス感染症対応に関する有識者会議」(以下「会議」という。)を開催する。
① 新型コロナウイルス感染症発生以降これまでの、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく対応や、保健・医療の提供体制の構築の対応等の整理及び評価に関する事項
② 上記の対応に係る中長期的観点からの課題の整理に関する事項(内閣官房「新型コロナウイルス感染症対応に関する有識者会議の開催について」より引用)

 会議の結果はたった20ページの報告書である。東日本大震災と福島第一原発事故の際には、国会にも国会事故調査委員会が設置され、政府事故調査委員会、民間事故調査委員会など多元的な形で相当程度充実した振り返りがなされたことと比べると随分あっさりしすぎていると言わざるをえないのではないか。

 なお単純に比較することはできないが、東日本大震災の死者、行方不明者は約1.9万人。それに対して、5類移行の2023年5月までの累計死者数は約7.5万人。大雑把だが3.5年で均してみると、2万人/年を超える。

 素朴に考えても、直接的な感染症対策は言うに及ばず、社会、経済、緊急事態法制など含めて議論の対象は広範にわたり、次の感染症に備えた検討が政府、国会は言うに及ばず、様々なレベルでのしっかりした振り返りと将来構想が必要に思えるがどうか。