地域社会の「無縁化」も投票率を押し下げている

松本:中高年のライフスタイルの変化という主観的な議論はわきに置くとしても、地域社会の変容と選挙制度の変化が、中高年の政治離れを加速させたことも指摘しなければなりません。

 かつて、地方において選挙は「お祭り」のようなもので、各地域で支持を受ける個人の政治家を応援することが当たり前でした。あまり褒められたことではありませんが、半ば強制的に選挙に行かされる人もいたでしょう。それが2000年以降、人口減やインターネットの発達などの理由により、地域社会のつながりが希薄になっていきます。

 特に地方の選挙で顕著ですが、田舎ほど投票率が毎回下がっています。

松本氏作成、政治意識の変貌―「そのつど支持」から「選挙ばなれ」へ─より
拡大画像表示

 市議選において、さいたま市の中でも都会に近い浦和区や大宮区は投票率の減少が緩やかなのに対して、周辺部の岩槻区では極端に落ち込んでいます。地域社会の「無縁化」と政治離れがどれほど密接な関係にあるか、わかるのではないでしょうか。

 地域社会の無縁化と歩調を合わせるように、96年に小選挙区比例代表並立制が採用されます。

 小選挙区制はリクルート事件を契機にした「政治とカネ」の問題の解決をねらった制度ですが、1つの選挙区から政党を選ぶ仕組みになったため、政党の看板やリーダーの人気に依存して当選する人が多くなってしまった。

 中選挙区時代は1つの選挙区で同じ政党から複数の候補者が出ることが当たり前で、「誰を選ぶか」という政治家個人に重きが置かれていました。しかし、今や政治家個人の応援というより、「どの政党を選ぶか」という側面の方が強くなっています。

 政治家個人を応援するモチベーションが保てなくなると、投票率は下がっていきます。事実、衆院選において96年以降一時的に投票率が上がったのは2009年に民主党が政権を握ったときくらいのものです。当時は都市部の無党派層が、「政権交代」を期待し投票していました。

 元々、選挙に行く習慣を下支えしていた地方の「しがらみ」が希薄化した上に、選挙制度も民意が反映されているのかどうか分からないものになってしまった。それが、中高年に限らず、投票率が下がっている理由でもあります。

「国政選挙の投票率の推移について」、総務省のホームページより
拡大画像表示