チャゴス諸島の主権をモーリシャスに返還

 10月3日、英国はインド洋のディエゴ・ガルシア島を含むチャゴス諸島の主権をモーリシャスに返還すると発表した。湾岸戦争やアフガニスタン、イラク戦争の出撃拠点となった戦略的要衝であるディエゴ・ガルシア島の米英軍事基地は今後99年間にわたって英国の管轄下に置かれ、これまでと同じように引き続き使用される。

 基地建設で強制退去させられた島民はモーリシャスやセーシェルに数千人、3000~1万人が英国に移住。英国に対し「アフリカ最後の植民地」を放棄するよう求める声が高まっていた。モーリシャスは今後、ディエゴ・ガルシア島以外のチャゴス諸島への再定住を自由に進められる。

 しかし気になるのは中国の習近平国家主席のインフラ経済圏構想「一帯一路」との関係だ。グローバルサウスを牽引する中国はブラック・ライブズ・マター運動と連動して、米欧諸国に対して黒人差別や奴隷制度の責任を追及する情報戦を密かに展開してきたとされる。

 19年、バルバドスは一帯一路への協力文書に署名。ジャマイカも一帯一路に参加する10番目のカリブ諸国に名を連ねた。22年に外交関係樹立50周年を迎えた中国とモーリシャスは重要なパートナーだ。自由貿易協定(FTA)を結び、経済関係を強化している。

 植民地主義という「負」の遺産の清算を突き付けられた英国の終わりが確実に近づいているのかもしれない。

【木村正人(きむら まさと)】
在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争 「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。