Pablo Larrain

 一般市民が追悼に訪れられるよう、ロンドン英議会議事堂のホールに遺体を納めた棺が安置され、国葬当日まで24時間体制で受け入れるなど、最後まで開かれた王室の象徴であったエリザベス女王。だが、お別れに市民が長蛇の列を成した彼女ですら、支持が低迷した時期がある。

 ダイアナ元王妃の死後、半旗を掲げず、声明も出さなかった女王に国民たちが猛反発したのだ。

 しきたりを重んじる女王からすれば、王室を出た元王妃にコメントをする必要はないと考えたはず。それでもすぐに民意を受け入れ、弔意を表すると迅速な対応が認められた。

 一方で、世界に目を向けると人気者はやはり圧倒的にダイアナ。国民の女王vs世界のプリンセス。そこにどんな軋轢があったのか。

「実際の悲劇に基づく寓話」

『スペンサー ダイアナの決意』は実話をもとに構成された伝記映画。「実際の悲劇に基づく寓話」とクレジットされているが、ここに描かれているキャラクターと関係の生々しさは本物だ。話はクリスマス休暇のたった3日間の出来事。これだけで離婚に至るダイアナの心中を察するに十分である。

Pablo Larrain

 1991年、クリスマス。英国ロイヤルファミリーの人々は、いつものようにエリザベス女王の私邸サンドリンガム・ハウスに集まっていた(エリザベス女王が亡くなったのはスコットランドのバルモラル城だった。夏はバルモラル城、冬はサンドリンガム・ハウスで過ごすのが定例)。

 時間通り、女王より先に屋敷に訪れる人々。だが、ダイアナは規格外。遅刻して、最後に姿を現す。世界中から熱い視線を浴び、どこでも騒がれる彼女は不倫と離婚の噂の最中におり、その一挙一動が以前にも増して注視されていた。