金正恩の最大の目的は、「金王朝」の独裁体制の維持であり、娘を後継者として指名したようである。その独裁王朝を他国、とりわけアメリカや韓国の攻撃から守るために不可欠なのが核兵器である。ミサイルは核兵器を確実に敵国に到達させるための運搬手段である。

昨年9月9日、北朝鮮・平壌で行われた建国75周年記念の軍事パレードに出席した金正恩総書記(右)と娘ジュエ氏の様子を放送した韓国のテレビ画面。韓国の国家情報院はジュエ氏について「後継者教育を受けている」と分析している(写真:Kim Jae-Hwan/SOPA Images via ZUMA Press Wire/共同通信イメージズ)
拡大画像表示

 ところが、昨年5月と8月に、北朝鮮は軍事偵察衛星の打ち上げに失敗した。そこで、金正恩はプーチンに技術移転を求めたのである。その成果は2カ月後には現れ、11月21日、北朝鮮は軍事偵察衛星の打ち上げに成功した。

ウクライナへの攻撃に北朝鮮兵士が加わる可能性

 北朝鮮製の武器や弾薬がウクライナの戦場で使われている。それに加えて、ロシア軍が北朝鮮の兵士からなる3000人の部隊を編成したと、10月15日にウクライナのメディアが伝えている。この部隊は、ロシア西部のクルスク州で戦闘に参加する可能性があるという。

 この報道の真偽を確かめるのは難しいが、もし、報道の通りだとすれば、ロシアと北朝鮮の軍事協力がさらに進んでいることが懸念される。

 ウクライナのゼレンスキー大統領は、10月17日、ベルギーで記者会見し、北朝鮮が1万人規模の兵士をロシアに派遣しようとしていると述べた。

 北朝鮮に対する制裁の履行状況を監視する国連安保理の専門家パネルは、2009年6月に設置された。委員8人は、常任理事国5カ国と日本、韓国、南半球代表となっている。ところが、このパネルの任期延長に、ロシアが拒否権を行使して反対したため、4月30日に15年間の活動を停止した。ウクライナ戦争で北朝鮮との協力関係を強化しているロシアは、パネルの存続は国益に反すると判断したのである。

 そこで、日米韓3カ国は1月16日、専門家パネルに代わる組織として、新たな組織を設置すると発表した。イギリス、フランス、オーストラリアなども加わり、11カ国が参加する。新組織は「多国間制裁監視チーム(MSMT)」という名称である。

 韓国外務省の金烘均第1次官は16日の記者会見で、「専門家パネルの報告書より詳しい内容を出し、専門家パネルに劣らない監視システムとして発展させたい」と述べたが、国連安保理から切り離され、ロシアも中国も参加しない組織が十分な制裁監視を行えるかどうかは疑問である。

 今年の10月6日、中国と北朝鮮は国交樹立75周年を迎え、習近平主席と金正恩は祝電を交換した。5年前の70周年のときと比べ、習近平の祝電の内容はあまり変化がなかったのに対して、金正恩の祝電は、文字数も減り、内容もあっさりとしたものになっている。

 中国は北朝鮮の核開発を好ましく思っておらず、北朝鮮にとっては、ロシアとの関係ほど中国との関係は進展していない。しかし、ロシア・中国・北朝鮮という連携は揺らいでおらず、西側にとっては、今後は敵のブロックの強化を懸念せざるをえなくなるであろう。

 残念ながら、世界はブロック化の方向に進み、第三次世界大戦の跫音(きょうおん)が聞こえてきている。

【舛添要一】国際政治学者。株式会社舛添政治経済研究所所長。参議院議員、厚生労働大臣、東京都知事などを歴任。『母に襁褓をあてるときーー介護 闘いの日々』(中公文庫)『憲法改正のオモテとウラ』(講談社現代新書)『舛添メモ 厚労官僚との闘い752日』(小学館)『都知事失格』(小学館)『ヒトラーの正体』『ムッソリーニの正体』『スターリンの正体』(ともに小学館新書)『プーチンの復讐と第三次世界大戦序曲』(インターナショナル新書)『スマホ時代の6か国語学習法!』(たちばな出版)など著書多数。YouTubeチャンネル『舛添要一、世界と日本を語る』でも最新の時事問題について鋭く解説している。