イスラエルによるイラン破壊工作はすでに始まっている?

 イランでは「イスラエルによる破壊工作が始まったのではないか」との憶測が広まっている。国内の製油所の爆発が相次ぎ、原油輸出の要であるカーグ港でも油漏れなどが発生しているとの情報もある。

 日量約2000万バレルの原油が通過するホルムズ海峡にも異変が生じている。

 IEAが衛星からの情報を基に船舶の運航を監視する「ボートウォッチ」のデータを集計したところ、10月2~8日にホルムズ海峡を通過したタンカーの数が前年に比べて23%減少し、1日平均52隻となっている。

 イランが原油輸出に慎重になっていることが主な要因だ。イランから出港するタンカーの数は10月に入り半減している。イランの原油輸出量は通常日量170万バレルだが、10月1~10日は110万バレル程度に減少している*1

*1Iran's Oil Exports: On a Slow Boat to Nowhere(10月11日付、OILPRICE)

 輸出量を減らす一方、イランは地政学リスクを理由に主な輸出先である中国に対し、自国産原油の価格の値上げを要求している*2

*2Iran Seeks Higher Prices for Its Crude Bound for China(10月10日付、OILPRICE)

 ホルムズ海峡以上に打撃を被っているのは、紅海の玄関口にあたるバベルマンデブ海峡だ。輸送される原油の量が日量870万バレルから400万バレルにまで減少している*3

*3Houthi Havoc: Oil Flows Shift as Ships Avoid Red Sea(10月11日付、OILPRICE)

 1年以上にわたる中東地域の紛争のせいで世界の原油市場は圧迫を受けているが、市場はこれを「買い」材料にする気配はないようだ。

 このような状況下でOPECプラスは12月から毎月日量18万バレルずつ増産することを決定している。世界市場に占めるOPECプラスのシェアが5割割れになることへの危機感が背景にあると言われているが、原油価格の下押し圧力になることは間違いない。

 米金融大手シティグループは14日、「OPECプラスが12月から増産すれば、原油価格は年明けに1バレル=55ドルになる可能性がある」との予測を示している。

 原油消費国である日本にとっては朗報だが、過ぎたるは及ばざるがごとし。原油安に起因する湾岸産油国の地政学リスクが顕在化しないことを祈るばかりだ。

藤 和彦(ふじ・かずひこ)経済産業研究所コンサルティング・フェロー
1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。2016年から現職。著書に『日露エネルギー同盟』『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』ほか多数。