挙句の果てに、ある男性教員から、美里さんの研究に対して「あなたは強迫性障害のようにこのテーマにこだわっている」と言われた。アカデミックハラスメントである。不信感がつのり、美里さんは大学院に通えなくなってしまった。

「泣き寝入りはしたくない」と、一度は大学当局に訴え出ることを考えた。ハラスメント事案をまとめた書類を作る際、筆者も協力した。弁護士事務所に行く時も同席した。だが、結局、訴え出る直前に怖くなってしまった。「この先長い闘いになるのには耐えられない」と思った。美里さんはひとり静かに退学することを選んだ。

 筆者は美里さんの様子を間近で見ていて、悔しくてたまらなかった。研究者として将来有望だった美里さんの未来を奪ったA教授。ハラスメントに見て見ぬふりをする大学教員たち。理不尽な仕打ちに心が折れてしまった美里さん。「協力してくれたのにすみません」と謝る美里さんに、「頑張って闘おう」とは言えなかった。

自分が本当にやりたいことは何か?

 しばらくして、ヨガや整体に興味があった美里さんはマッサージ店での仕事を見つけて働き始めた。しかし、ここでも上司に恵まれなかった。オーナーはすぐにキレる、怒鳴る、「お前」と呼んでくる。退職前、「辞めるんやったら研修にかかった金を返してもらうからな」と脅された。労働基準監督署に相談し、研修費用を返金することはなかったが、辞める際は退職代行サービスを使った。

 またしても「貧乏くじ」を引いてしまった形の美里さんだったが、ここで一度立ち止まることにした。自分が本当にやりたいことは何か。ゆっくり時間をかけて考えてみた。

 美里さんには知的障害を持つ妹がいる。「障害」というものにあまり向き合ってこなかった自分に気づいた。精神疾患を抱えて働けなくなった人が身近にいたこともあり、障害のある人びとの就労を支援する事業所の存在に関心を持った。同時に、若い時代にしかできないこととして、国内での「離島留学」を思い立ち、すぐに行動に移した。