部員を恐喝したヤンキー集団にいた教え子

 最初のエピソードは、学校に赴任して2年目に起きた出来事。トラブルに巻き込まれヤンキー集団から恐喝を受けた部員がいた。

 部員に頼まれ一緒に呼び出し場所の校門に行った初鹿は、彼らに「こいつは今、仲間と甲子園を目指してるんだ。問題を起こしたらみんなの夢が壊れちゃうんだ。許してもらえないか」となだめた。

 だが、血気盛んなヤンキーたちと一触即発の言い合いが続いた。すると、その中にいた1人が「初鹿先生」と声を掛けてきた。それは1年生の時に学校を退学した、別の運動部にいた生徒だった。

「先生の歴史の授業はよくわからなかったけど、くだらない大学時代の話はめっちゃ面白かったよ」と言い、「この先生、良い人だから帰ろうぜ」と仲間を連れて引き揚げて行った。そんな昭和の時代の学園ドラマのような事件が、本当に起きていた。

 いつどこで生徒に助けられることがあるかもわからない。もし教え子が社長になったら、就職の時、「先生の教え子なら、ウチの会社で採用するよ」と言ってほしい。だから野球部でレギュラーになって活躍する子だけじゃなく、たとえ事情があって退学するような子であっても、別れ際はきちんとしておきたい。

 無理だとわかっていても、生徒が100人いたら100人に好かれたい。初鹿はそんなふうに考えるようになった。