社会人野球の頂点を決める大会、今年の都市対抗野球が東京ドームで開催され(7月19日~30日)、三菱重工East(横浜市)の初優勝で幕を閉じた。高校野球ともプロ野球とも趣の異なる「大人の真剣な野球」は、プレーのレベルの高さだけでなく、選手やそこに関わる者たちの人柄や野球に懸ける思いが垣間見える、人間臭さの漂う世界でもある。3編のインサイドストーリーから、社会人野球の魅力を紐解いていく。(矢崎良一:フリージャーナリスト)
1回戦3試合が行われた大会4日目。東邦ガス(名古屋市)の入社9年目・飯田裕太内野手と、NTT西日本(大阪市)の2年目・井澤駿介投手という2人の東大出身選手が、同じ日に試合に出場したことで話題になった。
今大会には2人の他にも、合計5人の東大出身選手が出場を果たしている。卒業後に野球を続けること自体が稀なだけに、大会創成期の記録までは調べられないが、近年ではなかった人数だ。
このうちの一人である明治安田(東京都)の松岡泰希捕手は、3年前の東大で主将を務め、彼の学年からは前述の井澤を含め3人が社会人野球に進んでいる。
これもまた異例なことで、背景には東大野球部のレベルアップがあり、「東大でも、そういうこと(野球を継続する)を言っていい時代になったのでは」と当時の松岡は語っていた。
2年生の頃からレギュラーとして試合に出場し、「東大キャノン」と呼ばれた強肩で注目を集めた松岡は、4年時にはドラフト指名候補としてメディアに取り上げられる機会が増えていた。
だが、最終的にプロ志望届を提出することなく、採用内定が出ていた明治安田への就職を決めた。そして、社会人野球選手になった。
松岡は「僕は社会人野球をやりたかったんです」と言う。そこには少年時代の、一人の社会人野球OBとの邂逅があった。