「レプリコン・ワクチン」への懸念、収まらず

 ところで、「自己増殖型=レプリコン」に対する懸念の声はその後、どうなったのでしょうか。

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 Meiji Seikaファルマ社のレプリコン・ワクチン「コスタイベ」は、ヒトに注射するとmRNAが体内で自己増殖を続ける仕組みです。免疫反応を呼び起こすmRNAが自己増殖を続けるため、少量の接種で長期間の効用が出ると期待されています。

 ところが、安全性への疑念はこの間、医療関係者の間から消えませんでした。

 一般社団法人・日本看護倫理学会(理事長=前田樹海・東京有明医療大学教授)は2024年8月に「新型コロナウイルス感染症予防接種に導入されるレプリコンワクチンへの懸念 自分と周りの人々のために」と題する緊急声明を発表し、「安全性および倫理性に関する懸念」を表明したことなどから、にわかに「レプリコンは危険」という言説がSNSなどで拡大しました。

 その背景には、レプリコン・ワクチンが認可されたのは日本が世界初だったことに加え、ベトナムでの治験で十分な結果が得られていないといった事情が横たわっていました。一部の医療関係者は、レプリコン・ワクチン自体が自己複製mRNAであるため、接種者から非接種者に感染(シェディング)する懸念もあると表明。そうした声は消えておらず、現在でも一部の医師や病院関係者らがレプリコン・ワクチンを使用しないよう求めています。

 また、9月中旬には、レプリコン・ワクチンの製造・販売元であるMeiji Seikaファルマの現役社員グループが「安全性を確認できていない新型コロナワクチンを強引に販売すべきでない」として、『私たちは売りたくない!』というタイトルの書籍を出版し、大きな話題となりました。この書籍は発売数日で増刷が決まったようですが、この背後にも「本当に大丈夫か」という国民の不安があるものと思われます。

 これに対し、厚労省はレプリコンの危険性を真っ向から否定しています。最近もウエブサイト「新型コロナワクチンQ&A」を更新し、次のように説明しました。

Q レプリコンワクチンは、自己増幅性のあるワクチンとのことですが、体内で無限にウイルスのタンパク質が作られたり、接種を受けた方から他の方にワクチンの成分が伝播することを懸念しています。接種しても問題はありませんか。

A レプリコンワクチン接種後の細胞内におけるmRNAの増幅は一時的なものであり、無限にウイルスのタンパク質が作られることはありません。

 また、現在、色々な国で、新型コロナワクチンのレプリコンワクチンを含め、様々な疾患を対象としたレプリコンワクチンの開発が進められていますが、これまでに、レプリコンワクチンを受けた方から他の方にワクチンの成分が伝播するという科学的知見はありません。

 薬事承認にあたっては、動物試験や臨床試験の結果に基づいて安全性が審査され、既存のmRNAワクチンと比較し、安全性に大きな差異がないことが確認されています。

 一方、製造・販売元のMeiji Seikaファルマ社はこの新薬の安全性を強調すると同時に「新型コロナウイルス感染症が感染拡大するなかで、国内でワクチンを製造できない日本は、ワクチンを海外からの輸入に頼らざるをえない状況に陥りました」とし、国家安全保障の観点からも政府や大学などと協力しながらワクチンの開発・製造を続けると表明しています。

 コロナワクチンの接種をめぐっては、これまでにも多くの副反応や事故例が報告されてきました。そうしたなかで、レプリコン・ワクチンを接種するかどうか。公正な情報を集めて、適切な判断を下すことを求められているのは、定期接種の対象となる高齢者らだけではないようです。

フロントラインプレス
「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年に合同会社を設立し、正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や写真家、研究者ら約30人が参加。調査報道については主に「スローニュース」で、ルポや深掘り記事は主に「Yahoo!ニュース オリジナル特集」で発表。その他、東洋経済オンラインなど国内主要メディアでも記事を発表している。