ローテク機器を武器に変えた高度な「情報戦」

 ヒズボラを率いるナスララ師は、事件をイスラエルによる攻撃と断定し、報復を宣言しました。イスラエルの戦争は対ハマスだけでなく、レバノン領土に拡大する可能性も出てきたのです。

 イスラエルを支持してきた米国はこの間、ハマスとイスラエルの停戦合意に道筋をつけようとしてきましたが、11月の大統領選を控え、さらに難しい対応を迫られるでしょう。

 今回の連続爆破事件は、「情報戦」の凄まじさも物語っています。

 ポケベルなどへの爆発物装着は、ヒズボラがローテク機器を配布することを事前に知っていたことを強く推察させるものです。爆発事件後、イスラエルはレバノンの首都・ベイルートを空爆してヒズボラ幹部を殺害しましたが、これも通信ネットワークが使えないため幹部が実際に集まって会議を開いていた現場を狙ったものでした。

 事前の情報収集が不完全であれば、こうした攻撃は成功しなかったでしょう。

 ロシアとウクライナの戦争では、ドローンによる攻撃やサイバー攻撃が威力を発揮しています。兵器近代化の速度は想像を絶する速度で進んでいますが、殺人ロボットの登場などAI兵器の開発・配備は人類社会そのものに大きな影響を与えます。ヒズボラを狙った爆弾事件はポケベルなどのローテクに目を奪われがちですが、事前にはハイテクを駆使した高度な情報戦があったことは疑いありません。

 今回の事件を契機に新しい形のテロや戦争が増えれば、紛争当事国のみならず、国際社会の安定を根底から覆す恐れもあります。