金融マーケットでは米連邦準備理事会(FRB)が0.5%と大幅な利下げを決め、中東ではヒズボラの戦闘員が所持していたポケットベルが一斉に爆発し緊張が高まっている。それでも、原油市場の反応は限定的だ。筆者は原油価格は年末までに1バレル=60ドル割れを予測する。唯一の撹乱要因はさらなる中東情勢の悪化だが、下落傾向が続く可能性が高いと言える理由とは?
(藤 和彦:経済産業研究所コンサルティング・フェロー)
米WTI原油先物価格(原油価格)は今週に入り、1バレル=68ドルから72ドルの間で推移している。先週のレンジ圏に比べ3ドルほど上昇している。米連邦準備理事会(FRB)の利下げ期待により、原油市場のセンチメントが一時的に回復した格好だ。
まず、いつものように世界の原油市場の需給を巡る動きを確認しておきたい。
FRBは9月18日、政策金利を0.5%下げて4.75~5.0%にすることを決定した。利下げは2020年3月以来、4年半ぶり。通常の2倍に当たる利下げ幅だったが、市場は織り込み済みだったため、反応は限定的だった。
供給途絶も相場を下支えしている。
ハリケーン「フランシーヌ」が襲来したことで、米メキシコ湾岸では先週、日量73万バレルの原油生産が停止したが、16日時点でも同21万バレル分が中断したままだ。
政争で原油の輸出が止まったリビアの回復も緩慢だ。リビアの原油生産量は先週、前週の3倍に当たる日量55万バレルに増加したが、以前の水準(日量100万バレル)にはほど遠い状況だ。
足元の原油価格は堅調だが、需要サイドの動きが暗い影を投げかけている。
市場は最も注目しているのは中国の動向だ。
8月の原油処理量は前年比6.2%減の日量1396万バレルだった。5カ月連続の前年割れで、年初来の累計も前年比1.2%減となっている。
中国では国内で余った石油製品を海外に輸出していたが、利ざやが悪化したため、8月の輸出量は前年に比べて44%も減少した。9月に入り、石油企業2社が倒産している
米国の状況も芳しくない。
今年夏のガソリン需要のピークは日量約929万バレルと前年のピーク(同936万バレル)を下回った。9月上旬にドライブシーズンが終わり、原油需要が今後伸びる可能性は低いだろう。
世界の原油需要について最も弱気なのは国際エネルギー機関(IEA)だ。