「経済は好調を続け、賃金は上昇、貧困率は急降下し、犯罪も大幅に減っている。俺が大統領になって、700万人もの雇用を生み出したんだ。それだけじゃない。ウィスコンシンの失業率も、史上最も低い数字となった。どうだ、いいニュースだろう」

 この日の聴衆は、ほぼ白人で占められていた。目測では、9割以上といったところか。この日に限らず、トランプの支援者集会はいつでも白人の聴衆が圧倒的に多い。トランプ率いる共和党が、白人の、白人による、白人のための党であることは確かだ。

 ところが、次のトランプの言葉はそうした考えをあえて打ち消そうとする。

「リンカーンを除けば、俺は最も黒人寄りの大統領だ」

「俺が達成したことの中でも一番気に入っているのは、黒人や、ヒスパニック系、アジア系の失業率が、史上最も低い数字になったことだ。これまでひどかった黒人の失業率も、最も低くなっている。だから、誰も想像できなかったようなペースで黒人が共和党に入っているんだ。リンカーンを除けば、俺は最も黒人寄りの大統領だ」

 有色人種だけではない。低所得者もトランプ経済の恩恵に浴している、とつづける。

「トランプ政権下の経済では、低所得層の人たちが最も大きな賃金の上昇を果たしている。“ブルーカラー層の好景気”が起こっているんだ。共和党政権では、金持ちだけがさらに金持ちになるなんて言うが、そんなのはウソっぱちだ。貧困層こそが最も大きな経済的恩恵に浴している」

 聴衆を魅了し続けたまま、1時間半の演説はあっという間に終わった。大半の聴衆は充足感に包まれ、家路についた。

 しかし、その聴衆の中にあって私はどこかで違和感を抱いていた。

 あまりに話がうまくできすぎていないだろうか。

 もしトランプが主張する通りの実績を上げているのなら、なぜ、トランプの支持率が、史上最低にとどまっているのか。

 黒人の共和党支持が増えているのなら、なぜ、集会で黒人の姿を見かけることがないのか。

 釈然としない思いを抱いたまま、私はホテルに戻り、ベッドに潜り込んだ。