ABCニュースが主催したテレビ討論会でも虚偽や誇張と思われるトランプ氏の発言トランプ氏が話題に(2024年9月)(写真:ロイター/アフロ)

トランプ氏が返り咲きを果たすのか——。11月の投票日に向け、選挙戦の様子が連日報じられる米大統領選。その発言にたびたび虚偽や誇張が指摘されるトランプ氏だが、熱狂的な支持者も多い。実態を探るため、ジャーナリストの横田増生氏は2020年の選挙戦でトランプ陣営の選挙事務所に潜入取材を敢行した。ユニクロ、アマゾン、ヤマト運輸など数々の現場に潜入取材を果たした横田氏が、そこで見た光景とは。

(*)本稿は『潜入取材、全手法 調査、記録、ファクトチェック、執筆に訴訟対策まで』(横田増生著、角川新書)の一部を抜粋・再編集したものです。

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◎どうしてトランプはこんなデタラメを口にできるのか…【前編】日本人「潜入記者」が見たトランプ陣営

ウソにほかならない「もう一つの事実」

 トランプは息を吐くようにウソをつく。

 アメリカのメディアが、トランプに対して身構えたのは、トランプの就任式からだった。

 就任式への参加人数は推定で25万人。オバマ1期目のときは180万人だったから1桁違った。

 2016年の大統領選挙では世紀の大番狂わせを演じ、ヒラリー・クリントンを破ったトランプだったが、それは辛勝だった。僅差でクリントンに競り勝ったが、圧勝で選挙を制したオバマと比べて人気がないのは当然だった。

 しかし、トランプはその事実が受け入れられない。

 トランプは翌日、「俺が演説をして、この目で見た。俺には参加者の数は100万人か、150万人くらいに見えた」と発言し、「記者とは地上で最もウソにまみれた人間だ」と批判した。

 トランプの意を受け、大統領報道官が記者会見を開き、メディアを非難した。

「就任式の参加者数は過去最大だった。就任への熱意を弱めようとするのは恥ずべき行為で、間違っている」

 ところが、メディアがオバマとトランプの就任式会場の航空写真を公開し、トランプの参加者が少ないことが一目瞭然となると、トランプの側近がニュース番組に出演し、トランプ側の主張は「もう一つの事実に基づいている」と語り失笑を買う。

 就任式の参加者数に関する事実は一つであり、もう一つの事実など存在しない。「もう一つの事実」とは、ウソにほかならない。

 アメリカのメディアは、これで身構えた。