トランプ氏が返り咲きを果たすのか——。11月の投票日に向け、選挙戦の様子が連日報じられる米大統領選。その発言にたびたび虚偽や誇張が指摘されるトランプ氏だが、熱狂的な支持者も多い。実態を探るため、ジャーナリストの横田増生氏は2020年の選挙戦でトランプ陣営の選挙事務所に潜入取材を敢行した。ユニクロ、アマゾン、ヤマト運輸など数々の現場に潜入取材を果たした横田氏が、そこで見た光景とは。
(*)本稿は『潜入取材、全手法 調査、記録、ファクトチェック、執筆に訴訟対策まで』(横田増生著、角川新書)の一部を抜粋・再編集したものです。
>>【前編】から読む
◎どうしてトランプはこんなデタラメを口にできるのか…【前編】日本人「潜入記者」が見たトランプ陣営
ウソにほかならない「もう一つの事実」
トランプは息を吐くようにウソをつく。
アメリカのメディアが、トランプに対して身構えたのは、トランプの就任式からだった。
就任式への参加人数は推定で25万人。オバマ1期目のときは180万人だったから1桁違った。
2016年の大統領選挙では世紀の大番狂わせを演じ、ヒラリー・クリントンを破ったトランプだったが、それは辛勝だった。僅差でクリントンに競り勝ったが、圧勝で選挙を制したオバマと比べて人気がないのは当然だった。
しかし、トランプはその事実が受け入れられない。
トランプは翌日、「俺が演説をして、この目で見た。俺には参加者の数は100万人か、150万人くらいに見えた」と発言し、「記者とは地上で最もウソにまみれた人間だ」と批判した。
トランプの意を受け、大統領報道官が記者会見を開き、メディアを非難した。
「就任式の参加者数は過去最大だった。就任への熱意を弱めようとするのは恥ずべき行為で、間違っている」
ところが、メディアがオバマとトランプの就任式会場の航空写真を公開し、トランプの参加者が少ないことが一目瞭然となると、トランプの側近がニュース番組に出演し、トランプ側の主張は「もう一つの事実に基づいている」と語り失笑を買う。
就任式の参加者数に関する事実は一つであり、もう一つの事実など存在しない。「もう一つの事実」とは、ウソにほかならない。
アメリカのメディアは、これで身構えた。