たしかに、就任式の参加人数は大した問題ではない。

 だが、こんな明白な事実さえも認めず、自分たちの都合のいいように捻じ曲げようとする。こんな大統領は、史上初めてだった。メディアはトランプの発言をファクトチェックすることが必要だ、と考えた。

トランプ発言の事実確認で購読収入を伸ばしたワシントン・ポスト

 この事実確認に最も熱心だったのが、「ワシントン・ポスト」紙だった。事実確認の取材班を組んで、トランプの発言を追い、本当か、ウソかを判定した。この事実確認に特化したことで同社は、購読収入を大きく増やしている。

 事実確認の基本は、取材を尽くしたうえで、相手に直接訊くことだ。政治家や芸能人の醜聞を暴く記事の最後にしばしば当事者への直撃取材があるのは、書かれる本人こそが最も事情に詳しいはずだと考えるからだ。相手にとって不利な事実ほど、丁寧に相手の言い分を聞き、両論併記を心がけることが必要となる。

 しかし、毎日のトランプの主張を事実確認するとなると話は違ってくる。「ワシントン・ポスト」紙やCNNのように誰かが常に見張っていないと、ウソを掬い取り切れない。トランプのようなウソの常習犯の場合、大手メディアの専門部隊に判定を委ねるしかない。

 なぜ事実が大切なのか。

 民主主義の社会では、市民一人ひとりが、行政や政治、経済に対しお客様ではなく、当事者であり、さまざまな場面で決定を下していく。その判断の基盤になるのが事実だ。

 市民が判断するのは選挙のときだけではない。

 たとえば、時の大統領が、相手陣営に盗聴器を違法に仕掛けていないか、時の首相が、海外の航空機メーカーから賄賂を受け取っていないか、巨大ネット通販企業が脱税すれすれの方法で税金を逃れていないか。

 かりにそれまで買い物をしていたネット通販企業が税金を払っていないことを知れば、ライバルのネット通販企業に買い物を切り替えることもあり得るだろう。