聴衆は、トランプの演説に合わせて、

「USA! USA!」
「もう4年! もう4年!」
「トランプ! トランプ!」

 というシュプレヒコールを叫ぶ。熱に浮かされたようなトランプへの支持が、会場内で乱反射する。トランプは、聴衆の声が鳴りやむまで、演台から目を細めて支持者を見渡す。

 トランプの弁舌の矛先は、オバマ政権の失政に向かう。

「俺がこの選挙で再選を目指すことにした最大の理由は、オバマのもとで、6万カ所の工場が閉鎖されたからだ。考えてみてくれよ。国内の6万カ所が、メキシコや中国に移転してしまった。アメリカの地図を広げ、6万カ所の点を描いてみて、それが全部なくなってしまったとしたら恐ろしいことじゃないか。だが、安心してくれ。俺が政権を取ってからは、すべての工場がアメリカに戻り始めている。すでに1万カ所以上の新工場が稼働をはじめた」

聴衆を虜にするトランプ

 トランプがバラク・オバマに対して激しい憎悪の念と劣等感を抱いていることは、アメリカ人なら誰もが知っている。トランプがオバマを憎む最大の理由は、オバマの再選を阻むためにトランプが大統領選に立候補するのに失敗したとき、オバマがテレビカメラの前でトランプをさんざん笑い物にしたからだ。

 トランプの受けた屈辱は計り知れなかった。トランプがその後、なんとしても大統領になろうと決意したのは、自分を虚仮(こけ)にしたオバマへの復讐を果たすためだった。

 大統領になると、トランプはオバマ政権の政治遺産をひっくり返すことを無上の喜びとした。オバマの政治遺産とは、オバマケア(医療保険制度改革)やイランとの核合意などを指す。

 トランプはこう続ける。