「忠実な信者」

 ヴァンスが描いたような白人層は、トランプを狂信的に支持する「true believer(忠実な信者)」である。

 大衆運動が、ある種の狂信者によって推進されることを明らかにしたのがエリック・ホッファー(1898〜1983年)である。彼は、1951年に『True Believer(大衆運動)』を、1955年には『The Passionate State of Mind and Other Aphorisms(情熱的な精神状態)』という本を出版した。

「忠実な信者」とは、「神聖な大義のためにみずからの生命を犠牲にする覚悟をしている狂信者」であり、欲求不満を持つ者が進んで大衆運動の支持者をするとホッファーは指摘する。

 ホッファーは、不平不満を抱く者として、①貧困者、②不適応者、③浮浪人、④少数派、⑤青年期の若者、⑥野心家、⑦悪癖、あるいは妄想にとらわれている人びと、⑧不能者、⑨限度を知らない利己主義者、⑩退屈している人、⑪罪人を列挙する。

 憎悪もまた大衆運動の原動力となる。ホッファーは、「大衆運動は、ふつうその悪魔の存在が確実で、また強烈であるほど強力になるものである」という。

 テレビ討論会で、トランプは、「アメリカ全土の町で何が起こっているのかを見てください! スプリングフィールドでは、彼ら(不法移民)は犬を食べている。猫を食べている。彼らは、そこに住んでいる人たちのペットを食べている!」と述べた。つまり、移民こそが「悪魔」だと言っているのである。そして、トランプの「忠実な信者」は、それを信じて、トランプを狂信的に支持し続ける。