「綱領」と「公約」はまったく違う

 自民党も実は単独で集める票だけでは政権を取れません。実は、衆議院議員選挙の比例区ベースで見ると、投票用紙に「自民党」と書いている有権者は、棄権者を含めた全有権者の20%くらいしかおらず、小選挙区でも平均3万票ぐらいの公明党票がないと、推定で100人くらいは落選してしまいます。

 でも自民党右派と公明党とでは、その支持層の政策志向が真逆になるほどの違いがあります。その意味では与党側も野合政権です。他党のことは言えません。

 民主政治の不可欠の工夫である「上手な仲間づくり」ができない最大の理由は、日本の政治家も有権者も 「基本政策が一致していない政党が集っても無意味だ」という、問題を切り分けられないまま決めつけているフェイクにやられているからです。

 そこには政党の「綱領」と「公約」の区別をきちんと考えないまま、ぼんやりと「結婚しなければ協力はできない」で話を終わらせるいつものパターンがあります。

「綱領」とは何かというと、有志が集まって、未来に対する夢やビジョンを共有して、ともに歩み出そうというときにつくられた、いわば決起と志の言葉です。つまり、これは党のメンバーたちがお互いの結束をたしかめ合うためにつくった比較的「内向きの言葉」を含みます。

 他方、選挙における「公約」とは、「あのときの私たちの言葉」ではありません。もっと短いスパンの期間限定の「取り決め」程度のものです。しかも、聞いてもらう相手は党の外にいる人たちです。

 2009年の民主党政権誕生の選挙では「有権者との約束」としてのマニフェストが宣言されました。思い出せば、民主党には2013年まで「綱領」がありませんでしたが、マニフェストという名の公約はありました。呉越同舟的な政党でしたからそうなりました。

 では、そのマニフェスト=公約とは何かというと「我らが与党になったとき、その次の選挙までに達成する予定の立法工程表」に他なりません。「任期満了までの4年間で(解散がなければ)、これだけのことをやるつもりですが、どれだけ達成されたかで私たちの仕事ぶりの採点を、また次の選挙のときにしてください」というメッセージです。理念ではありません。

 ですから綱領と公約はまったく違います。綱領で「日米安保の廃棄」を掲げる共産党も、それを知っている他党も、そんな目標を憲法に書いてある衆院の任期4年間で達成できるはずがないことをわかっています。

 六十数年継続したアメリカとの条約を見直すためには、段取りを含めて最低10年はかかるとするのが、堅実な政治家の認識です。だから共闘を呼びかける野党の束ね役の言い方は、こうなります。