中国との危機管理メカニズム構築が急務

 返り咲きを狙うドナルド・トランプ前大統領(共和党)は1期目、台湾への武器売却を増やし、高官を派遣した。1979年に米国が中国と正式に外交関係を樹立して以来、歴代のどの政権より米国を台湾に近づけたと評価される。このためトランプ氏は台湾で比較的人気が高かった。

 しかし今回の大統領選でトランプ氏は台湾に対する米国のコミットメントをより曖昧なものにしている。米国の役割を「保険会社」に例え、台湾は保険の見返りに米国に何も提供していないと述べた。台湾の半導体産業にも言及し「米国のチップ・ビジネスを奪った」と批判した。

 第2次トランプ政権が台湾政策で経済的利益と安全保障のバランスをどのようにとるかは不透明になっている。

 一方、カマラ・ハリス副大統領(民主党)はバイデン政権の路線をほぼ踏襲すると予想される。ハリス氏は一貫して台湾の自衛能力を支持してきた。

 ロシアのウクライナ侵攻で欧州の安全保障は崩れた。イスラエル・ハマス戦争の長期化で中東も危うくなってきた。台湾海峡も怪しくなると手の施しようがなくなる。次期米政権は「戦略的明確さ」で抑止力を強化し、中国との間で危機管理メカニズム構築が急務だ。

【木村正人(きむら まさと)】
在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争 「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。