地獄絵図化戦略には大量の無人機が使われる。写真は5月20日、米海兵隊とフィリピン海兵隊による共同訓練「LZRコブラ」で使われた垂直離陸可能な無人機「Stalker VXE30」。米海兵隊のサイトより

台湾侵攻を想定した米軍の非対象戦略

 米インド太平洋軍(INDOPACOM)のサミュエル・パパロ司令官(海軍提督)は、中国が台湾に侵攻した場合、米軍が数千の無人機や無人艦を配備し、「無人の地獄絵図」を作り出すとの戦略を明らかにした。

 米誌ワシントン・ポストのコラムニストが、先般のアジア安全保障会議/シャングリラ対話(シンガポール、5月31日~6月2日)で、パパロ司令官にインタビューした際に明らかにしたもので、6月10日、同紙に記事を掲載し、それを各紙が伝えた。

 その戦略は、「ヘルスケープ(Hellscape)」戦略、すなわち「地獄絵図」戦略と呼ばれるものだ。

 同戦略は、中国軍が台湾海峡を渡ろうとした瞬間に、無人の水上艦艇、空中ドローンおよび潜水艦数千基(隻)を台湾の全周に張り巡らし、事実上の第一防衛線戦力として機能させ、致命的なドローン攻撃によって中国軍を「惨めな」状態に陥らせることを目的としている。

 この背景には、2022年8月、米国のナンシー・ペロシ下院議長(当時)が台湾訪問した際、その対抗措置として、中国軍は「Short, Sharp War」といわれるように迅速に台湾を包囲し、戦略的封鎖を課す能力を示した。

 そのことが、台湾と米国を警戒させただけでなく、逆に米軍にとって台湾の全周にドローンを展開して台湾を防衛するアイデアを得る貴重な学習経験となったと言われている。

 パパロ司令官は、「私は彼らの生活を1か月間ひどく惨めにすることができるので、残りのすべてのことに費やす時間を稼ぐことができる」とワシントン・ポスト紙に語っている。

 この発言は、後ほど説明を加えるが、米軍の大量の重装備や軍事資器材、兵站物資などを米本土から輸送して本格的軍事介入を行うまでには概ね1か月程度の時間が掛かることを示唆している。

 その間、同戦略は、中国の注意をそらし、米国が対応する時間を稼ぐために考案された、米国に大きな非対称的優位性をもたらす、いわゆる「繫ぎの戦略」と見ることができよう。

 この「地獄絵図」戦略は、2023年8月にキャスリーン・ヒックス国防副長官によって発表された「レプリケーター(Replicator)」構想に基づくものである。

(編集部注:Replicator=自己複製すること)

 同構想は、無人機・自律型兵器システムを本格的に配備して、中国軍に対抗するための計画であり、米国は同構想の速やかな実現に向け注力し、実戦配備を加速させている。