インド太平洋を最優先する米国
米国のロイド・オースティン国防長官は、5月31日(金)から6月2日(日)、シンガポールで開催された国際戦略研究所のアジア安全保障会議(シャングリラ対話)で、次のように述べた。
「米国は太平洋国家である。それは、この地域が他のどの地域よりも今世紀の方向性を形作っているからだ。米国はインド太平洋に深く関与している。我々は全面的に関与している。そして、どこにも行かない」
そして、ロシアのウクライナ侵攻やイスラエルとハマスの紛争など、欧州や中東での歴史的な衝突にもかかわらず、インド太平洋は米国にとって最優先の作戦地域であり続けていると明言した。(以上、下線は筆者)
さらに、「米国が安全でいられるのは、アジアが安全でいられる場合に限られる。だからこそ、我々はこの地域で長らくプレゼンスを維持してきた。そして、我々は同盟国やパートナーへの関与を果たすために必要な投資を続けている」と強調した。
冷戦期における対立の中心は欧州であった。
しかし、オースティン長官が、「この地域が他のどの地域よりも今世紀の方向性を形作っている」と述べた意味は大きい。
冷戦終結後、外交、経済、軍事などのあらゆる面で、インド太平洋に世界の戦略重心が移り、米国の利益や安全が本地域の動向に最も大きく左右されるとの認識を示したのである。
その変化の最大要因は、特に21世紀初頭から注目されてきた「中国の台頭」にほかならない。
同長官は、台湾の頼清徳総統の就任を威嚇するように、中国が「台湾独立を図る動きに対する効果的な懲罰だ」と主張して行った「連合利剣2024A」軍事演習について、紛争は強制や衝突ではなく対話で解決すべきだとし、「懲罰で解決すべきではない」と述べた。
また、セカンド・トーマス礁やスカボロー礁に対する中国の不法な行動を指摘し、「フィリピンが直面している嫌がらせは、単純に言って危険だ」と非難した。
我が国の尖閣諸島への執拗な行動は、あえて指摘するまでもない。
このように、中国の台頭は自身が主張する「平和的」に反し、「攻撃的、覇権的」であることから、欧州や中東で深刻な問題を抱えているにもかかわらず、「インド太平洋は米国にとって最優先の作戦地域である」ことを鮮明にしたのである。
そのため、このところ米国は、在日米軍の権限・体制見直しによる自衛隊と在日米軍の連携強化、日米韓3か国による安全保障・防衛協力の促進、台湾関係法に基づく米国政策の強力推進、そしてフィリピンとの合同軍事演習および無人偵察機の継続的配備など、中国による危険な軍事的挑戦を抑止・対処するための体制強化を一段と進めている。