中国の恐怖支配に対する強い反発・反作用

 中国の国防部長(防衛大臣に相当)として初めてシャングリラ対話に出席した董軍氏の発言は、従来の中国の主張の繰り返しに過ぎないが、その言い回しは極めて過激であった。

 董軍部長は、中国は台湾の独立を阻止するために断固たる行動を取るだろうと警告し、セカンド・トーマス礁や南シナ海での侵害や挑発に対する中国の抑制には限界があると威嚇した。

 同氏は、台湾を中国から分離させようとする者は「粉々に打ち砕かれ、自ら破滅をもたらすことになる」と述べ、米国が台湾で中国のレッドライン(越えてはならない一線)を試していると非難した。

 中国の内外政策は、強権主義さながらの主として「恐怖」を基本とした支配と言って過言ではなかろう。

 戦狼外交や経済の武器化、軍事力による威嚇など、政治・外交、経済、軍事などすべての分野で相手に「恐怖」を与えて支配しようとするのを常套手段としている。

 古代アテネの歴史家ツキジデスが、不朽の名著とされる『戦史』で、国家を動かす3つの要件として挙げた「恐怖、利己心(利益)、名誉」の中の「恐怖」である。

 しかし、それは自由、民主主義、人権、法の支配といった同じ価値観を共有し「自由で開かれたインド太平洋」という共通のビジョンを追求する国には、かえって反発・反作用を招く以外の何物でもない。

 その反発・反作用は、自らの防衛力を強化して守りを固くし、同盟国、友好国そして同志国が協力連携して結束を強めることへと繋がっていくからである。

 そのことを、中国は理解していないのではなかろうか。

 特に、周囲をイエスマンで固めて独裁体制を強化し、意思決定権を露骨な形で自身に集中させている習近平国家主席は、自分と異なった意見に耳を傾けないばかりかそれらを粛正しており、独断専行する危険性が常に付きまとっている。

 今、中国は不動産バブルが崩壊して経済が落ち込み、若年層の失業率が高止まりするなど、社会全体が絶望的な停滞期に入り、社会的大動乱が起きても不思議ではないと指摘する識者が多い。

 そのような国内の行き詰まりを、国際的紛争を利用して解決しようと考えないとも限らない。

 加えて、中国の世界的覇権拡大を阻止する外交的解決の道筋は見えない。

 そうであれば、「備えあれば患いなし」との先人の知恵に従い、それを徹底して実行する以外に有効な手立てはないのではなかろうか。