大きな戦略的転換点を迎えたウクライナ戦争
3月のロシア大統領選挙で、現職のウラジーミル・プーチン大統領が5回目の当選を果たした。
憲法では大統領の任期は通算2期までだが、2020年7月の国民投票の結果、現職大統領やこれまでの大統領経験者は対象外とする憲法改正がなされていた。
また、実質的なライバル不在で、プーチン大統領の公表得票率が87.3%であることを考えると、この選挙が民主主義の体裁を装ったいかに偽りの選挙であるかは明らかだ。
これが、「独裁者プーチン」によるロシアの強権支配である。
2030年までの6年の任期が始まり、プーチン大統領は戦争の長期化に備えて戦時経済の立て直しを図るため、腹心で経済学者のアンドレイ・ベロウソフ氏を新たな国防相に起用した。
主として軍事部門を司る参謀総長は、現職のワレリー・ゲラシモフ氏が続投する。
一方、米国では11月の大統領選挙を控え、現職のジョー・バイデン大統領と前大統領のドナルド・トランプ氏の一騎打ちの様相になっている。
現時点では支持率が拮抗しており、どちらが大統領に選任されるか予断を許さない。
なお、米紙ワシントン・ポスト電子版は4月7日、ロシアのウクライナ侵攻を巡り、トランプ前米大統領がウクライナに南部クリミア半島や東部ドンバス地方(ドネツク、ルガンスク両州)の国境地帯をロシアに割譲するよう圧力をかけることで終戦に持ち込めると発言した旨、関係筋の話として報じた。
そのこともあり、「もしトラ」には、NATO(北大西洋条約機構)/EU(欧州連合)の警戒感が強い。
そのような政治情勢の下、ウクライナ戦争では、ドンバス地方におけるウクライナの劣勢が伝えられている。
さらに、ロシア軍がハリコフ州に戦線を拡大して攻勢を激化させ、ウクライナ軍の戦況を急速に悪化させている。
このような状況を踏まえ、米連邦議会は数か月に及ぶ膠着状態の後、4月20日の下院に続き、23日に上院でも、ウクライナに608億ドル(約9.4兆円)の軍事支援を提供する予算案を可決した。
4月24日にバイデン氏が署名し、ようやく成立した。
「F-16」戦闘機も、6~7月頃から戦闘加入が可能と見込まれている。
特筆すべきは、米国および英国が、供与した長射程ミサイルなどによるロシア領内攻撃を容認する政策変更を行ったことである。
また、EUなどは、ウクライナがNATOに加盟するまでの間、二国間協定を締結し、ウクライナへの長期支援を確約するするための暫定措置を講じている。
ウクライナにとっては、ここ2か月間ほどが正念場となろう。今、ウクライナ戦争は大きな戦略的転換点を迎えていると言えよう。