米国の本格的来援・軍事介入には時間が必要

 軍事輸送の重要性を世に知らしめたのは、湾岸戦争である。

 55万余の将兵と700万トンの物資をアラブの砂漠に動かした史上最大の「ロジスティクス・システムの戦い」は、W.G.パゴニス著『山・動く』によって詳細に説明されており、ご記憶の方も多いのではないだろうか。

 そのように、中国の台湾侵攻に対する米軍の本格的来援・軍事介入には大規模な物資の輸送が不可欠で、そのため時間がかかる。

 輸送機で素早く運べるものもあるが、大量の戦車・大砲などの重装備や軍事資器材、兵站物資などを米本土から輸送して本格的来援・軍事介入を行うには海上輸送に大きく依存せざるを得ないことから、相当の時間を要するのである。

 下記図表は、米シンクタンク・ヘリテッジ財団が公表した「Steaming Times (Days) to Areas of Vital U.S. National Interest」(括弧は筆者)である。

 これによると、まず、アメリカ大陸を列車で横断するのには約1週間を要する。

 米西海岸から南シナ海までの海上輸送には、平均時速15ノット(27キロ)で航行した場合、ハワイ、グアム周辺海域経由で概ね20日かかることになる。

 それぞれの端末地における積載・卸下にも数日を要することも考慮しなければならない。

 さらに、目標地域に到着しても、すぐに作戦が開始できるわけはではない。

 米軍の戦力展開は、紛争当事国(Host Nation)による港湾や空港での受け入れ(Reception)、部隊の宿営・駐屯(Staging)、戦場(前方)への移動(Onward Movement)、そして戦力合一(Integration)という4段階が基本となっており、それで初めて作戦を開始する態勢が整う。

 この4段階には、少なくとも10日程度の日数が必要と見ておかなければならない。

 パパロ司令官が、概ね1か月間の時間稼ぎの必要性を説いたのもこのためである。

 その間、台湾軍の自衛能力と約5万の在日米軍を中心とする米軍の「地獄絵図」戦略によって中国軍の侵攻を「惨めな」状態に陥らせて阻止し、米軍主力の本格来援・軍事介入を待ってこれを撃破しようとする構想と見てよかろう。

 同司令官は、「私は数々の機密能力を使って台湾海峡を無人の地獄に変えたい」「(細部)内容は言えません。しかし、それは現実であり、実現可能です」(括弧は筆者)とワシントン・ポスト紙で述べ、自信をのぞかせた。