苦悩し、計算し尽くし、慎重に政治的立場を明確にした

 トランプ氏の「マーケットで」という言葉は恐らく意図的なものであり、スウィフト氏に「今後のビジネスへの影響を知れ」と言いたいのだと推察される。事実、スウィフト氏はシンガー・ソングライターのみならず、優れたビジネス・ウーマンとしても知られている。

 英ガーディアン紙は10日、それまでハリス支持を表明せず、先のAI画像についても沈黙を続けていたスウィフト氏について、自身のブランドを熟知している彼女はそのブランドを守るため、全ての行動には細心の注意を払い、意図的に行っていると分析した*1

*1Is Taylor Swift a secret Trump supporter?(The Guardian)

 2019年、スウィフト氏は同じく英ガーディアン紙上でロング・インタビューを行なっている。その中で、彼女はまだ10代の頃、偉大なミュージシャンの栄光と挫折を描くテレビ番組に夢中になっていた過去を明かしている*2

*2Taylor Swift: ‘I was literally about to break’(The Guardian)

 この番組を何度も繰り返し見た上で、彼女はこれまで様々なミュージシャンが、どの時点で道を誤ったのかをつぶさに研究したのだという。その上で、2018年までは政治的な発言をすることをあえて控えてきた。

 カントリー音楽でキャリアをスタートしたスフィフト氏だが、同じくカントリーの大物であったディクシー・チックスが、政治的発言で失敗したことも参考にしたという。ディクシー・チックスは2003年イラク戦争に反対し、当時のブッシュ大統領を批判したことで逆に炎上。ブルドーザーでCDなど関連商品を破壊されるなど、猛烈な不買運動やボイコットに遭い、相当な経済的ダメージの上殺害予告まで受けた。

 スウィフト氏が政治的発言を控えた理由としては他にも、自分とは反対の政治的陣営を支持するファンのことも考えたからだという。

民主党候補者への支持を表明したテイラー・スウィフト氏=2018年(画像:同氏のインスタグラムより
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 しかし、2016年にトランプ氏が選出され、米国が大混乱に陥ったことで当時民主党の大統領候補だったヒラリー・クリントン氏支持を表明しなかったことを後悔したとのちに語っている。2018年、ようやくその年の中間選挙で、自身の音楽的ルーツのあるテネシー州で民主党候補者への支持を表明した。