ドイツ国内工場の閉鎖を検討しているフォルクスワーゲン(写真:ロイター/アフロ)ドイツ国内工場の閉鎖を検討しているフォルクスワーゲン(写真:ロイター/アフロ)

 ドイツ最大手の自動車企業であるフォルクスワーゲン(VW)はドイツ国内の工場閉鎖を検討する方針を発表した。VWに限らず、減産や海外への生産移転を検討している国内企業は増加の一途を辿る。

 ドイツの製造業は、安価なロシア産天然ガスに伴う生産コストの低さと、中国という確実な販路を背景に強大な輸出力を誇ったが、安価な天然ガスはロシアによるウクライナ侵攻で途絶。中国市場も中国の景気停滞や外交上の軋轢もあって先行き不透明感を強めている。果たして、“輸出強国”のドイツで何が起きているのか。(唐鎌 大輔:みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト)

産業空洞化を象徴するVW工場の閉鎖

 従前より筆者はドイツ国内の経済活動にかかるコストがにわかに上昇していることを背景に、同国の直接投資フローが純流出に傾いている兆候に注目してきた。

 その兆候は既に国際収支統計上では確認されつつある。特に2022年から2023年にかけては海外からドイツへの対内直接投資が急減し、直接投資全体では過去に類例を見ない純流出に直面していた(図表①)。

【図表①】

ドイツの対内・対外直接投資ドイツの対内・対外直接投資

 こうした中、9月2日に飛び込んできたニュースは、まだ淡い「懸念」でしかなかったドイツの産業空洞化というテーマが「現実」になりつつあるという警鐘にも見受けられる。

 同日、ドイツ最大手の自動車企業であるフォルクスワーゲン(VW)社はドイツ国内の工場閉鎖を検討する方針を発表した。

 これまでは外資系企業によるドイツへの投資、すなわち対内直接投資の減少が争点になっていたが、今回のVW社のニュースを皮切りにドイツ企業による海外への投資、すなわち対外直接投資の増加が一段と注目を集めてくるだろう。

 今回は製造業大国ドイツの象徴でもあるVW社が国内工場を閉鎖するという動きであり、87年に及ぶ同社の歴史では初の意思決定となる。そのショックはショルツ政権にとどまらず、中長期的に見たドイツ経済の展望に関わるだろう。

 ちなみに、工場閉鎖に加え、「2029年まで雇用を保障するという労働組合との協定」について打ち切りが検討されていることも報じられている。

 同社が全世界で雇用する65万人の約半数(30万人)がドイツ国内の労働者と言われていることから、この方針がドイツ労働市場に与える影響は無視できないものになる。「ドイツの不調」は「ユーロ圏の不調」であり、当然、ECBの「次の一手」を検討する上でも重要な材料になり得る。