妊婦でも注意、コロナ禍で身に付けた感染対策を

 日本の最近の研究では、妊婦の死亡に関する分析が報告されている。

 2010~24年までに妊産婦死亡症例検討評価委員会(JMDEC)に報告された616件の死亡例を調べたもので、8%に当たる48件が感染症による死亡、そのうちの56%が劇症型溶血性レンサ球菌感染症によるものだった。妊婦の死亡原因として主要な感染症の一つに位置づけられていることになる。

 7割が風邪症状から始まり、その後に腹痛や胎児の死亡といった深刻な状況に陥ったことが分かった。 

 この研究で重要な発見の一つは、新型コロナ感染症の時期には死亡が報告されなかったことだ。

 頻繁な手洗いやマスクの着用、風邪を引いている人などとの接触を避けることで、死亡に至る感染症を防ぐことを示している。これは妊娠に関連した研究だが、示唆に富む研究と言えるだろう。

 先に示したA群溶血性レンサ球菌感染症の年ごとのグラフでも見られたが、コロナ禍には激減していた。日常的な感染症の対策が人食いバクテリアも予防可能であることを推定させる結果だ。

 人食いバクテリアは、8月下旬にいったん発生が減少し、冬場に向けて急増する傾向がある。ごく日常にリスクが潜んでいることを考えると、冬に向けて、手洗いやマスク着用、消毒、風邪の人との距離を保つというコロナ禍で身に付けた感染対策を再評価するとよいかもしれない。

【参考文献】
国内における劇症型溶血性レンサ球菌感染症の増加について(2024年6月時点)
新型コロナの重症化率・致死率とその解釈に関する留意点について
Ikebe T, Okuno R, Uchitani Y, Yamaguchi T, Isobe J, Maenishi E, Date Y, Otsuka H, Kazawa Y, Fujita S, Kobayashi A, Takano M, Tsukamoto S, Kanda Y, Ohnishi M, Akeda Y; Working Group for Beta-Hemolytic Streptococci in Japan. Epidemiological shifts in and impact of COVID-19 on streptococcal toxic shock syndrome in Japan: A genotypic analysis of group A Streptococcus isolates. Int J Infect Dis. 2024 May;142:106954. doi: 10.1016/j.ijid.2024.01.021. Epub 2024 Feb 19. PMID: 38382822.
Dunne EM, Hutton S, Peterson E, Blackstock AJ, Hahn CG, Turner K, Carter KK. Increasing Incidence of Invasive Group A Streptococcus Disease, Idaho, USA, 2008-2019. Emerg Infect Dis. 2022 Sep;28(9):1785-1795. doi: 10.3201/eid2809.212129. PMID: 35997313; PMCID: PMC9423907.
Increased incidence of scarlet fever and invasive Group A Streptococcus infection - multi-country
Hasegawa J, Sekizawa A, Tanaka H, Katsuragi S, Tanaka K, Nakata M, Hayata E, Murakoshi T, Ishiwata I, Ikeda T. Infection route associated with invasive group A streptococcal toxic shock syndrome in maternal deaths: Nationwide analysis of maternal mortalities in Japan. Int J Infect Dis. 2024 Sep;146:107154. doi: 10.1016/j.ijid.2024.107154. Epub 2024 Jun 25. PMID: 38936654.

星 良孝(ほし・よしたか)
ステラ・メディックス代表取締役/編集者 獣医師
 東京大学農学部獣医学課程を卒業後、日本経済新聞社グループの日経BPにおいて「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集者、記者を務めた後、医療ポータルサイト最大手のエムスリーなどを経て、2017年に会社設立。獣医師。
 ステラ・メディックス:専門分野特化型のコンテンツ創出を事業として、医療や健康、食品、美容、アニマルヘルスの領域の執筆・編集・審査監修をサポートしている。また、医療情報に関するエビデンスをまとめたSTELLANEWS.LIFEも運営している。
@yoshitakahoshi
ステラチャンネル(YouTube)