2008年以降に世界に拡大していた強毒株

 海外にも目を転じると、人食いバクテリア増加の背景には、海外での異変が影響していたことが分かる。

 実は人食いバクテリアの原因となるA群溶血性レンサ球菌は2010年前後に転機があった。もともと「emm1」という株が流行していたのだが、ここから分岐する形で「M1UK」という強毒株が2008年に英国で出現したことが論文報告されていたのだ。

 この株はレンサ球菌トキシンA(speA)という毒素を持ち、致死率が高いことが脅威と見なされていた。

 これ以降、世界的にA群溶血性レンサ球感染症と、それが悪化した人食いバクテリアは増えていたのである。

 海外の論文を見ると、コロナ明けの時期に感染が急増したのは日本だけではないことも分かる。

 日本では2023年以降に一段とレベルが上がった流行を見せたが、2022年以降に、フランス、オランダ、アイルランド、英国、スウェーデンなどの国々で、A群溶血性レンサ球菌による感染症が急増していた。

 デンマークの研究報告によると、A群溶血性レンサ球菌感染症の急増はM1UK株の流入が関連すると明らかにされている。

 日本の流行においても感染した細菌が分析されており、M1UK株が関東を中心に入り込んでいることが明らかになっている。

A群溶血性レンサ球菌感染症M1UK株の都道府県ごとの検出数(出典:国立感染症研究所)A群溶血性レンサ球菌感染症M1UK株の都道府県ごとの検出数(出典:国立感染症研究所)
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 コロナ後の感染増加は、従来の増加のペースを大きく上回っているが、その理由については、コロナ禍後のウイルス感染症との同時感染が問題の一つと指摘されている。確かに、日本でもインフルエンザやRSウイルスなどが異常な流行になっていた。それが影響した可能性があるわけだ。

 さらに、一部の海外研究において「免疫負債」と呼ばれる状況が影響したとも指摘されている。コロナ禍で感染症にかからなかったことが、免疫機能の低下を招き、感染症に対して弱くなった可能性を意味する。他の感染症が増えていることも関係する。