近くのものはよく見えるが、遠くのものがよく見えない状態を「近視」という。複数の調査によると、日本の成人の5割前後が近視という結果が出ている。近視は世界的にも増加しており、WHO(世界保健機関)の推計によれば、2050年に世界中で近視になる人はおよそ48億人と、2050年時点の世界人口のおよそ半分に相当する見込みだ。
なぜこれほど近視が増えているのか。近視を放っておくとどうなるのか──。『近視は病気です』(東洋経済新報社)を上梓した医師の窪田良氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)
──「近視は病気です」と書かれています。どういうことでしょうか?
窪田良氏(以下、窪田):近視は、国によって「屈折異常」と言ったり、「病気」と定義したり、まだ意見が分かれるところです。
長らく世界的には「屈折異常」と考えられてきましたが、近視を「病気」と判断して注意喚起し、さらに治療していく国が増えてきました。しかし、日本ではまだ「屈折異常」という理解が主流で「病気」とは考えられていません。
──本書では、データを紹介しながら、日本では近視の子どもの割合がかつてと比較して大きく増加しているという点を説明されています。
窪田:近視の調査が始まって以来、実に40年間、一貫して近視になる人が増えています。2023年11月28日に出た文部科学省の最新レポート「学校保健統計調査」でも、近視の人の数は過去最多でした。
近視の増加は日本の子どもに限った話ではなく、WHOは2050年に全世界人口のおよそ半数が近視になると予測しています。ですから、グローバルなパンデミックというか、公衆衛生学的に非常に重要な問題です。
──なぜ近視が増えているのでしょうか。
窪田:近視がここまで増えた理由は、現代人のライフスタイルの変化にあります。
もともと人間は、狩猟民族として外で暮らしていました。こうした時代では、目が悪かったら生き延びることはできません。でも、農耕が始まり、定住が始まり、やがて屋内で暮らすようになり、屋内で過ごす時間の割合が増えてくると、近視が増加してきました。
今でもアフリカや北極圏など、より原始的なライフスタイルを保っている地域の人々は目が良い。ところが、そうした人たちが都市生活に移行して、子どもたちが学校に通い始めると、ワンジェネレーションでも近視の人口がどっと増えます。
──屋内にいるほど近視になりやすく、外にいる時間が長いほど近視になりにくいということですか?
窪田:そうです。屋内にいると、いろんなものが近くにあります。近くのものばかり見ていると、目が成長する過程でうまく成長できなくなります。
赤ん坊の目のサイズは大人の半分くらいです。それが、10年から20年ほどかけてどんどん成長するわけですが、成長過程で角膜と水晶体と網膜の距離がちょうど合う形で成長していく。これが正常な正視の状態です。
ところが、屋内にいて、近くに何でもあると、近くのいろんなものにピントが合ってしまう。
人間の目のレンズは単焦点ですから、ある点にピントが合っている時には、それ以外のもの(それ以外の距離にあるもの)に対しては、全部ピントがずれています。外にいて、遠くの景色を見ている状態というのは、目の成長には欠かせない環境ですが、室内ではそれは得られません。