官房副長官時代の木原誠二氏(写真:共同通信社)官房副長官時代の木原誠二氏(写真:共同通信社)

 にわかには信じがたい事件が、昨年から継続的に報道されている。第一次・第二次岸田政権で内閣官房副長官を務めた木原誠二・衆議院議員の妻(X子)が、安田種雄さん(X子の前夫)の不審死事件に関わっていると報じられているのだ。実際に、X子は重要参考人として何度も取り調べを受けている。その後、この事件の捜査は中止になったが、その経緯はあまりにも不可解だ。

 事件の捜査でX子などの取り調べを担当した元刑事は、大いに他殺の可能性があるこの事件が自殺扱いにされ、不当な形で捜査が止められた背景には、政治的圧力が働いていると語る。何が起きているのか。『ホンボシ 木原事件と俺の捜査秘録』(文藝春秋)を上梓した警視庁捜査一課殺人犯捜査第一係・元警部補の佐藤誠氏に聞いた前編。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)

──この本は、2006年4月10日に都内の閑静な住宅地で発生したある不審死事件について書かれています。どのような事件ですか?

佐藤誠氏(以下、佐藤):2006年に、安田種雄さん(当時28歳)が自宅で亡くなりました。この時、安田さんの家にはX子という安田さんの妻と、2人の子どもがいましたが、「皆、隣の部屋で寝ていた」とX子は主張していました。遺体を発見したのは、たまたまその時に息子を訪れた安田さんの父親です。

 事件の管轄だった大塚署は、この不審死を安田さんの自殺として早々に片付けました。十分に調査・検討せずに自殺扱いしたのは、大塚署の怠慢だったと私は思います。

 ところが、それから12年経った2018年に、大塚署のある女性刑事が、資料を読み返して、「この事件が自殺扱いなのはおかしい」と声を上げ、そこから再捜査が始まりました。

 そして、警視庁捜査一課にいた私が、この事件の再捜査の一端を担うことになりました。当時の課長も上司も皆、本件は再捜査が必要だと判断した。つまり、安田さんの死は自殺などではなく、事件の可能性が高いと考えたということです。

 事件現場の状況や証拠などを精査した結果、裁判所も事件性があると判断して鑑定処分許可状やガサ状(捜索差押許可状)を出しました。だから、私たちはこの事件に着手したのです。

 ところが、再捜査はまだ途中なのに、2018年に上からストップがかかった。なぜ捜査が止められたのか。私や文春は、政治からの圧力があったのではないかと見ています。

 それから5年、この事件の捜査は一時停止したまま放置されました。ところが2023年7月6日に、週刊文春がこの事件を報じたことで、事件の内容やX子が重要参考人であること、政治の圧力で捜査が止まった可能性があることなどが世に知れました。

 この時の報道のネタ元が誰だったのか、私はいまだに知りません。私にさえ明かさないのだから、ネタ元を絶対に明かさない文春のポリシーに沿った報道ですよね。