「アルツハイマー病の進行を約5.3カ月遅らせる」

伊東:アルツハイマー病の既存薬の代表例として、ドネペジルがあります。ドネペジルは、アルツハイマー病の症状を一時的に改善することができます。しかし、アルツハイマー病は進行性の疾患です。ドネペジルでは、進行速度を遅くすることはできません。服用を中断すると、すぐに服用前と同じ状態に戻ってしまいます。

 アルツハイマー病の原因は、脳内に蓄積したアミロイドという物質です。レカネマブやドナネマブは、脳内のアミロイドを除去する働きをします。つまり、脳内にアミロイドが蓄積する速度を抑えることができるため、アルツハイマー病そのものの進行速度を緩やかにすることが可能なのです。

既存薬とレカネマブ/ドナネマブの違い既存薬とレカネマブ/ドナネマブの違い
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 レカネマブの治療研究の評価手法として、認知症重症度評価尺度(Clinical Dementia Rating; CDR)が採用されました。CDRは記憶障害だけではなく、自分で生活ができているか、趣味を楽しめているかなど、日常生活の評価も含めたもので、各項目の合計であるCDR-SDは0点から18点で表されます。0点が正常、18点が重度認知症です。

 レカネマブ、ドナネマブを投与しても、すぐに効果は得られません。治験では、レカネマブを投与した人としていない人を比較すると、1年半でCDR-SDで0.45点の差が出ることが確認されています。これは、アルツハイマー病の進行を約5.3カ月遅らせることに相当します。

 レカネマブやドナネマブは長期間投与するほど、投与していない人とのCDR-SDの点差はどんどん開いていくと考えられます。治療期間が長くなるほど、効果が出ますので、気長に治療を続けることが重要です。