自己負担が100万円近いレカネマブ

伊東:レカネマブの薬価は、体重50kgの人で年間およそ300万円です。保険適用で自己負担額が3割負担の場合でも年間100万円近くかかります。日本には高額療養費制度もありますが、前臨床期からのレカネマブ、ドナネマブを用いた長期間の治療は、患者さんにとって大きな金銭的負担になることは確かです。公費への負担も莫大なものになるでしょう。

 加えて、副作用の問題もあります。レカネマブを投与した場合、約3%の人に脳の中のむくみや出血などの副作用が起こります。

 コロナウイルスのワクチンを思い出してください。ワクチンは予防が目的ですので、投与対象は健康な人です。しかし、今でもコロナウイルスのワクチンの後遺症に悩まされている人がいます。

 健康な人に投与する場合、副作用は限りなくゼロにしなければなりません。そこが現在の大きな課題です。

──将来のアルツハイマー病治療に対して、どのような期待をしていますか。

伊東:先ほどから、レカネマブの登場によりアルツハイマー病の治療は早期治療がより重要になったとお話ししてきました。

 早期治療の重要性は、がんを思い浮かべればわかりやすいかもしれません。健康診断でがんの疑いがあるという結果が出れば、多くの人はすぐに検査を受け、治療します。放っておくと、どんどん悪くなって手遅れになることを知っているからです。

 アルツハイマー病でも、がんと同じような考え方が常識となればいいと考えています。レカネマブ投与の対象は、アルツハイマー病の中でも軽度認知障害(MCI)か軽度認知症の方に限定されています。

 手遅れになってからでは治療はできません。繰り返しになりますが、疑わしいと思ったら、すぐに認知症専門医を受診してください。