「脳のデトックス」とは

伊東:私が勤務する慶應義塾大学病院では、レカネマブ承認後、120人以上の方がレカネマブの投与を希望して来院しています。しかし、その半分以上の方が、レカネマブ投与の適用外でした。

 症状が進行している方ももちろん多くいましたし、脳に小さな出血がたくさんある方もいました。アルツハイマー病の患者さんは、少しずつ脳に小さい出血が出てきます。これが増えてしまうと、副作用が出やすくなるため、レカネマブの投与の適用対象から外れてしまうのです。

 レカネマブに最後の希望を持ち、病院まで足を運んでいただいた方に「手遅れなのでレカネマブは投与できません」と伝えるのは、私たち医師も心苦しく感じています。

 あとは、血液検査です。先ほどもお話ししましたように、近い将来、アミロイドを検出する血液検査が承認され、普及するかもしれません。

 私の長期的なビジョンとしては、人間ドックや集団検診で血液検査を受け、異常が出た場合に「もう脳の中でアミロイドの蓄積が始まっています」ということで症状がなくても治療を始められるような環境が整えばと思っています。私はこれを「脳のデトックス」と呼んでいます。

 脳のデトックスにより、アルツハイマー病を回避し、豊かな老後を過ごし天寿を全うする高齢化社会を実現すること。これはすでに、研究レベルでは始まっている最先端のアルツハイマー病治療です。

 糖尿病や脂質異常症の人のほとんどは、健康診断で無症状の段階で「血糖値が高いですよ」「コレステロールが高いから気を付けましょう」という注意喚起を受けます。そして、脳梗塞や心筋梗塞、肝臓機能の低下などを予防するため、症状がなくても治療を始めます。アルツハイマー病でも同じようなことが実現できればと思っています。

関 瑶子(せき・ようこ)
早稲田大学大学院創造理工学研究科修士課程修了。素材メーカーの研究開発部門・営業企画部門、市場調査会社、外資系コンサルティング会社を経て独立。YouTubeチャンネル「著者が語る」の運営に参画中。