有効成分は投与量の0.1%という非効率性

伊東:現在承認されているレカネマブ、ドナネマブは点滴投与です。治療する場合は定期的な通院が必要ですので、患者さんの大きな負担になります。

 そこで研究されているのが、皮下注射による投与です。これが実現すれば、糖尿病のインスリン注射のように、患者さんご自身、ないしは介護者の方が自宅でレカネマブ、ドナネマブを注射によって投与できるようになります。

 また現在、点滴投与されているレカネマブ、ドナネマブの場合、脳に届く有効成分は投与量の0.1%と言われています。非常に効率が悪い。より効率よく脳に届くよう、有効成分であるアミロイド抗体の構造を改良する研究がされています。

 加えて、アルツハイマー病の治療のターゲットとして、アミロイド以外にタウという物質があります。アミロイドが蓄積するとその次にタウが蓄積し、これが神経細胞に悪影響を及ぼすと考えられています。アミロイドの次は、タウを除去する薬の登場が期待されており、この研究が盛んにおこなわれています。

 タウをターゲットにした薬の治験の結果が出るには、最低でもあと3年程度はかかると思っています。

──書籍では、アルツハイマー病の早期治療の重要性を強調していました。

伊東:レカネマブやドナネマブのようなアミロイドをターゲットにした薬を使う治療は、初期のアルツハイマー病、さらにはアルツハイマー病予備軍の人たちに高い治療効果をもたらします。

 ただ、私たちは、さらに初期、つまり、脳内でアミロイドの蓄積が始まっているものの、まだ認知機能障害があらわれていない、前臨床期アルツハイマー病の人たちに対する治療が必要であると考えています。

 前臨床期の段階でレカネマブ、ドナネマブを投与することで、アルツハイマー病の発症を予防することができます。今、世界のさまざまなところで、前臨床期でのアルツハイマー病予防に関する研究がおこなわれています。

──書籍の中で、アルツハイマー病の早期発見に欠かせない手段として血液検査を挙げていました。