血液検査によるアルツハイマー診断は実現するか?

伊東:レカネマブの保険収載に伴い、2種類のアルツハイマー病の検査方法、診断方法が保険収載されました。腰椎穿刺(ようついせんし)とアミロイドPETです。いずれも脳に蓄積したアミロイドの量を測定する手法ですが、腰椎穿刺は背骨に針を刺す侵襲的な手法であること、アミロイドPETは高価であることなどがデメリットです。

 それと比較して、血液検査は採血するだけで済みます。安価で、人間ドックや集団検診でも実施可能です。アミロイドを検出する血液検査によるアルツハイマー病の診断が保険収載されれば、爆発的に普及し、前臨床期アルツハイマー病の患者さんをすくい上げ、治療を始めることができます。

 アルツハイマー病診断のための血液検査は科学的な根拠が乏しいため、現時点(2024年8月30日)では保険収載されていません。ただ、この2~3年で技術的な革新があり、非常に高い精度でアルツハイマー病の診断ができるようになってきています。

 近い将来、FDA(米食品医薬品局)や日本の厚生労働省が、アルツハイマー病の診断方法として血液検査を承認する日が来るかもしれません。

──アルツハイマー病の早期発見、早期治療実現の障壁になることとして、どのようなことが考えられますか。

伊東:先ほど、レカネマブやドナネマブを使用した前臨床期アルツハイマー病の人たちを対象にした治験が実施されているという話をしました。

 前臨床期アルツハイマー病の人たちの認知機能の低下が始まるのは何年も先のことです。本当にアルツハイマー病を予防することができたのか評価するには、非常に長い期間の治験が必要となります。

 認知機能を指標として長期の治験を続けるのは現実的ではないという意見もあります。そこで、アミロイドPETや血液検査で脳内のアミロイドの蓄積量を測定し、その結果を薬の効果の評価に用いても良いのではないかという話もあります。

 その場合、実際の症状ではなく、バイオマーカーを指標にした治験データでFDAや厚生労働省が納得するのかという問題が生じます。

 仮にレカネマブ、ドナネマブの投与対象が前臨床期アルツハイマー病の人たちへまで広げられた場合(※)、コストの問題も出てきます。

※現在のレカネマブ、ドナネマブの投与対象は、アルツハイマー病の中でも軽度認知障害(MCI)か軽度認知症の患者に限定されている。